第369庫 自由にもほどがある
5人の出場メンバーが揃う。
ギルドの加入手続きは、王都にある冒険所でも可能なのだが――登録をどうするか。かつて、王都を攻め落とそうとしたフレイムドルフという名は使えない。
名前とは自身を表す形、それを捨て去る覚悟が必要となる。
「問題ない。今日から我は――そうだな、フレイムと名乗ろう」
意外とあっさりだった。
フレイムという文字列のみならば、似ているだけで――見た目も一転した彼が、火の都サラマンの王だったとは誰も結び付かないだろう。
不意に、後藤さんがフレイムに顔を近付けながら、
「簡単に名前を捨てるたぁ、前の器にプライドも一緒に置いてきたかぁ?」
「無作法者、面白いことを口にするではないか。置いてきた、という言い回しは言葉の選び方としては正しい。見た目の不格好さとは裏腹に――聡明だと褒め称えよう」
「言ってくれるじゃねえか」
「なんでもかんでも噛み付く――大人か子供か、それとも肉食獣か。威勢のよいものは嫌いではないぞ」
一触即発の雰囲気。
このまま、殺し合いでも始まるのかと思いきや――後藤さん、フレイム、両者共に笑い始める。
ナコが不思議そうな顔付きにて、ひっそりと僕に耳打ちしながら、
「……クーラ、どうして笑い合っているんですか?」
「……わ、わかんない。あえてこれだって言うなら、二人共頭がおかし、いや個性的だから通じ合う部分でもあったのかな」
「……クーラ、ハッキリ言い過ぎですよ」
「……ごめんなさい」
とりあえず、ギルド対抗戦の参加手続きも終わらせる。
不安要素は大量にあれど――まさかまさかの、不可能に近いと予想されていたフルメンバーでの出場が決定となった。
「ひゃははっ! これでもう後戻りはできねえなぁっ!!」
「イリスは後藤とお姉様に付いて行くの」
「ふむ。すでにこの場から――強者のオーラを感じるぞ。やはり、来た甲斐はあったというものだ」
三者三様ながら、笑顔を浮かべている。
「ギルド対抗戦は――2日後だね。作戦でも練ろうかなと思うんだけど、これからどこか食事でもどうかな」
僕の提案に――沈黙が訪れる。
どんな反応? なにか変なことでも言ったかな? 数秒ほどの間を置き、後藤さんが手を叩いて吹き出した。
「お前、この面子で作戦もクソもあると思ってんのか? 2日後だな、ギルド対抗戦の始まる時間前には来るから安心しろ」
「くっくっく。無作法者、その点については我も同意だ」
「あ、後藤っ! 待ってなの、置いて行かないでなのっ!」
じ、自由すぎる。
各々、好き勝手に――姿を消して行くのであった。
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