第356庫 Vengeという男
「"Liberty"が王都エレメント、ギルド対抗戦に出場してくるぜ」
「ニャニャンからのメッセージは――君自身だったのか」
"Liberty"とは、リボル亡き後の新たなギルドである。
ポンズとアラシからの情報で共通していることは、リボルに負けず劣らず常軌を逸してるという点だけだった。
「名前は、Venge――ベンジェだったね」
「おっ、そこまでは知っていたか。俺たちのリーダーが掴んだ情報はまだある。そのベンジェのジョブと超越者スキルについてだ」
ゲーム時、ベンジェという名は聞いたことはなかった。
ソロ特化のプレイにより名が知られなかったプレイヤーか。後々、この世界に転生してから超越者となったパターンか。
どちらにせよ、かなり濃密な――情報である。
「ニャニャン、大丈夫なのかな」
「ソラ、お前の心配している通り――リーダーは今、かなりの深層まで潜っていることには変わりない。まあ、なんやかんやで立ち回りは上手だからな。万が一の際は自分の命を第一にするだろうさ」
僕たちに情報を引き渡す。
その中継地点となるラミュアも命懸けなことには間違いない。もふもふ拠点地となる場所でも――顔を偽造していた。
これはSランクアイテム『虚像膜』だろう。
ゲーム時、顔を一時的に変化させる効果があった。
酒場で会った時以来、僕はまだ――現実となった今の素顔は見ていない。
「ベンジェは魔法職、ジョブは――聖術師だ」
「ヒーラー、だったのか?」
「お前と同じ感想だ、俺も勝手に攻撃職だと思っていたからな。だが、ベンジェは聖術師でありながら――人を簡単に殺す術を持っている」
ラミュアは言う。
「ヒーラーよ? 回復以外になにがあるというの?」
「ゴザルちゃん。この世界がリアルになった今、スキルの使い方によってなにもかもが変貌することは――お前も重々承知してるだろう?」
「……だから、ゴザルちゃんはやめなさいよっ!」
「話の腰を折らないでもらえるか?」
「つ、続きをどうぞ」
押しに弱ぁいっ!
ゲーム時から、よくニャニャンとラミュアには弄られていたが――それは今となっても変わらない様子である。
ラミュアは指を3本立てながら、
「オンリー・テイルは魔法職、その中でもヒーラー枠のジョブが3種類存在する。ベンジェの聖術師、その他にも精霊術師、巫女があることくらいは基礎知識だろう」
「そういえば、精霊術師ってヒーラー枠だったわね」
「ホムラを見ている限り、とてもそうとは思えないな」
「あの脳筋仮面は例外としておくぜ」
三者共に、同じ感想であった。
「まあ、例外とは言ったが――脳筋仮面同様、ベンジェもスキルを創意工夫した使い方なのは間違いないだろう。リーダー曰く、即死に近い技を持っているとのことだ。ヒーラーは怪我をした際、対象の身体を修復してくれる。だが、俺たちの身体が基本的に魔力で構築されていることはご存知だろう?」
ラミュアは次いで、
「ベンジェは治療した箇所、小さなかすり傷からでも――他者の深部に干渉することができるって話だ」
「まさか、魔力の核に――直接関与できるのか」
「話が早い、その通りだ」
「ねえ、魔力の核ってなに?」
「話の腰を折るなって言っただろっ?! お前この世界に来て随分と経つのに、まだ魔力の核の存在を知らなかったのかよっ!?」
「む、難しいことは苦手なんだもん」
「端的に言うと――魂に似たものだよ。僕たちの存在を形作る上で重要となる、魔力のメイン機関って感じかな」
ゴザルの場合、知識はなくとも感覚で理解しているだろう。
しかし、魔力の核は――僕も以前、ナコのものに触れたことがある。想像を絶するくらいの集中力、暴食で奪ったバフがなければ不可能に近い行為だった。
神に等しい御業、ベンジェは――容易くできるというのか。
「魔力の核に干渉か、恐ろしい超越者スキルだね」
僕の言葉に、ラミュアが首を振る。
「参ったことにな、あくまでこれは――基本的なスキルの創意工夫、その範疇に入るんだよ」
「冗談って言ってほしいな」
「ベンジェの超越者スキルは――別に存在する」
底が知れない。
ベンジェという男、未知数の脅威が世界に蠢いている。
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