第309庫 尋問
「ごめんなさい。アラシという男の方は取り逃がしたわ」
彼の逃げ足の速さは僕も理解している。
風属性を得意とするアラシに、追い付けるものはそうそういない。ポンズを捕らえることができただけでも――大収穫だろう。
「謝る必要なんてないよ。脅威を退けただけでも十分すぎる」
ポンズは僕の触手で拘束している。
マイマイを狙う理由、なにか情報を得ることができればと――色々と質問しているのだが口を割る様子はない。
マイマイがポンズのワキをくすぐりながら、
「さあ、吐けっ! 吐くが吉ヨっ!!」
「……」
「こいつ、全然反応ないネ」
「……」
終始、このような感じである。
簡単に話すとは思っていなかったが――どうしたものか。
生産職プレイヤーを狙っている理由、なにか情報の一端でも得られるとありがたい。
「頑固な子ヨ。どんな面してるか拝んでやるネ」
マイマイがポンズの装束、フード部分を外した。
そこから現れたのは、丸みを帯びた茶色耳の――ミミモケ族の少女だった。僕の妹と同年代くらいだろう。
猫耳、狐耳に続いて――これは狸耳か。
声の雰囲気に似た、大人しい印象を感じさせる。顔を見られるのがいやな現れか、目をギュッと固く閉じていた。
ポンズがゆっくりと口を開き、
「……殺すなら、殺したら」
「わかった。じゃあ、今すぐ殺そう」
僕の言葉に、マイマイが唖然とした顔付きをする。
「さっきの戦士がどうなったかは――知っているよね。今から5秒数える、それが君の残された時間だ」
「ソラたん。容赦なさすぎだって、本気で言ってるのカっ?」
「マイマイ、ここはもとの世界じゃない。生き死にが盛んな世界、彼女も覚悟を決めてここにいるはずだ」
僕はポンズに歩み寄る。
「ポンズ、最後に言い残すことがあるなら聞くよ」
「……特にない」
「大切な人は?」
「……皆、転生してからすぐに死んだ。うちもいつ死んだって構わない。こんな世界に長くいたいなんて思わない。この世界は汚い、汚いからこそ誰かがキレイにしないといけなかった」
ポンズは静かに目を開き、
「……早く殺したら」
無論、殺すなんてのは――真っ赤な嘘だ。
戦意も喪失し、無抵抗になった相手をなぶり殺しにする趣味はない。なにか少しでもポンズのことが知れたらと軽い挑発のようなものだ。制止しなかったナコとゴザルは、僕の魂胆に気付いていたのだろう。
僕はポンズの装束、襟元を――下げる。
「やっぱり、君もそうだったのか」
ライカに似た傷跡、この少女もまた――深い闇の被害者なのだ。
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