第305庫 襲撃者 その1

 出入り口の扉が斬り刻まれる。

 襲撃者がその断片を僕たちに向かって蹴り飛ばし――開戦の狼煙が上がった。荒々しい真正面からの立ち入り、歓迎すべき相手ではないと瞬時に理解できる。

 襲撃者は断片に紛れながら、一気に――距離を詰めて来た。


「はぁあっ!」


 ゴザルが最前線に立ち、一喝のみで断片を吹き飛ばす。

 声に魔力を込めているのか、周囲の空気が振動する。襲撃者の怯んだ隙を見逃さず、ゴザルが一閃――床に斬撃痕、線を引いたかのように敵味方に分かれる。一瞬の攻防戦、襲撃者はゴザルの話通り3人だった。

 武器と装備の形状から察するに――武者、戦士、狩人、どの襲撃者も立ち振る舞いから腕が立つことが容易にわかる。

 その中に――見覚えのある顔があった。


「こら参ったなぁ。こない強いやつおるなんて聞いてへんで」

「アラシ。襲撃者は――君だったのか」

「あぁ、ほんまよー会うなぁ。でも今日はあんたに用は微塵もない。邪魔するんやったら斬り伏せるしかないけどな」

「おひょーっ! なにあの黒猫ちゃん、俺のめちゃめちゃタイプだぜえ。頭なでに行ってもいい? 舐めに行ってもいい?」


 戦士がナコを見て舌舐めずりをする。

 もとの世界ならば通報・逮捕案件だが、この世界では――そうはならない。力を持つものは力で手に入れたいものを手に入れることができる。

 欲望のまま動く輩にとっては――最高の世界だろう。


「ねえねえ。黒猫ちゃんってもうブラとか付ける年齢? 色とかお兄さんに教えてくれると嬉しいぜえ」

「ロリコン。自重せえや」


 アラシが吐き捨てる。


「アラシ、お前――馬鹿か? 好き勝手生きるってそういうことだろうがよ」

「ワイも思想は同意やが、品性まで捨てた覚えはない」

「あっきゃっきゃっ! 散々殺し回っておいてよく言うぜっ!!」

「同じベクトルで考えるなや」


 仲間意識は低いのか。

 後方にいる狩人は――アラシと戦士の言い合いをとめることもせず、無言で傍観しているだけだった。

 僕はゴザルの後方で触手を展開しながら、


「ナコはマイマイと下がっておいて。あの変態には近付けたくない」

「は、はい」

「お前が触術師クーラか。俺たちのリーダーを殺した女だな」

「ああ。その通りだよ」

「残念ながら、お前の情報はギルド内で出回っていた。その即死技、俺には簡単に効かないぜえ? そいつを糸状の触手にしても体内にまで通らない」


 戦士は兜で顔を覆いながら自慢気に言う。


「通せるもんなら通してみろ。お前を殺した後は楽しく、そこの黒猫ちゃんと遊んでやるぜえ」

「……ソラ。こいつ、ぶっ殺していいかしら?」

「ゴザル。こんな獣物相手に、君が手を汚す必要はない」


 僕はゴザルの横に立ち並ぶ。


「聞くに耐えない。君は――永遠に消えろ」

「あきゃきゃっ! なに言ってんだお前? 耐久力に優れた、俺のジョブは――ぶげばらっ!」

「鎧を着込んでいるから、中で弾けてくれて助かったよ」


 まず一人、確殺する。

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