第295庫 皆が見てる

「ホム、実行して」

「本当にいいの? 5倍とか――ソラちゃん惑星の中心までめり込んで行っちゃうかもよ?」

「大丈夫よ」

「今のホムラの説明に大丈夫な要素一つもないでしょっ?! ゴザル、冷静になってくれっ!!」

「ホム、早くして」

「土龍、重量変化――5倍になっちゃえ」


 くうぉおっ! 

 重さに耐え切れず、ホームの床が崩れ落ちる。僕は自身の姿が皆の視界から――消えた瞬間を狙い撃ちする。


「暴食、土龍を喰らえ」


 全身が一気に軽くなる。

 ホムラには追撃されても困るので、獲得した土龍を覆い被せておく。僕は傀儡糸を即座に発動させて――ホームを全力で脱出した。

 屋根伝いに、王都を駆け回る。


「さすがに、これなら――ゴザルとホムラも簡単には追い付けないだろう」

「逃さないわよ」

「きゃぁあああっ!」


 思わず、乙女な声が飛び出す。

 真横、僕の真横を――ゴザルが並走していたのだ。あの隙のない俊敏な動きですらゴザルは捉えてくるのか。

 自信があっただけに、すでに心が折れそうである。


「ソラ、どうして逃げるの?」

「いや、普通に考えて――逃げるでしょっ!」

「私のことが嫌いになった?」

「嫌いになるわけないよ」

「じゃあ、私の気持ち――わかってくれるわよね」


 あ、これ――正解がないやつだ。

 最早、僕がどう足掻こうともゴザルは追い付いて来るだろう。僕は覚悟を決めて――ゴザルと真正面から対峙する。


「ゴザル。連絡も残さず、黙って留守にしたことは――悪かったと思っている」

「悪かったと思っているなら、なんで逃げたりするのかしら?」

「……」

「なんで?」

「……」

「なんで?」

「……」

「なんで?」


 怖ぁいっ!

 ゴザルが問い掛けながら――1歩ずつ、1歩ずつ、詰め寄って来る。ゴザルは出会った当初から、自身がこうだと思ったことには一直線な部分がある。

 今、僕がなにを口にしても――ただの口実にしかならないだろう。この状況を打破するためには、多少強引な手を使うしかないのかもしれない。

 僕はゴザルを力強く抱き締める。


「きゅ、急に、なによ」

「ゴザル、本当に――ごめん」

「ご、ごめんなんかじゃ、許さないんだから」

「どうしたら機嫌を直してくれる?」

「……じゃあ、キス、とか?」

「わかった」

「んむぅうっ?!」


 僕は言うが早いか、ゴザルの唇に唇を重ねる。

 ちなみに、僕たちは王都を――屋根伝いに移動していた。王都は昼夜問わず、人通りが非常に多いエリアである。


 無論、この騒ぎは王都中の皆が見ており――大騒ぎとなっているのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る