第284庫 忍者と武者

 ライカが忍び装束の上部を破り捨てる。

 藤色の衣が舞い、空に花が咲いているかのようだった。闇の中、鋭い視線で敵を見つめる立ち姿は――まさに忍者である。

 アラシはライカを見やり、大きくため息を吐きながら、


「先に言うておくが、子供の裸で興奮する趣味はワイにはないで」

「うげげっ、気持ち悪いこと言わないでほしいなぁ。動きづらいから捨てただけ、下着は着けてるもんねぇ」

「数年後なら守備範囲やったけどな」

「数年後って――まだロリコンの範囲内じゃん」

「はぁ? ワイが二十代ならギリセーフやろが」

「その顔じゃアウトだよ」

「……小生意気な減らず口、永遠に黙らしたるわ」

「それ、ライカのセリフ」


 ライカは背後にいる僕に――言い放つ。


「クーにぃ。"禁術"の使用許可をもらってもいいかなぁ」

「ライカ、気にせずブチかましてくれ」


 僕はその言葉に対して、即座に同意の旨を返す。

 今のライカが、周囲を顧みないという行動を――するわけがない。出会った当初に比べて、ライカの成長は目を見張るものがあった。

 ライカが人差し指を立て――叫ぶ。


「"神詠しんえい"っ!」


 ライカを中心に、花形の陳が咲き乱れる。

 超越者スキル"禁術"――ゲーム時には存在しなかった様々な忍術があり、その概要は僕にはわからない。

 恐ろしい力を秘めていることだけは――確かだった。


「ほんなら、ワイの本気も見せたろか」


 超越者スキルを目の前にしても、アラシに焦った様子はない。

 むしろ、愉快に歪めた表情からは――楽しんでいるというのが見て取れる。

 こいつは"Freedom"の残党、リボルの思想に賛同していたものだ。

 リボルに命を助けられた理由で付き従っていたライカとは本質的な部分が異なる。

 アラシが刀を鞘に納め、深く地面に沈み込む構えを取った。


「死んだことすら――気付かんかもしれんで」


 居合い斬り。

 間違いなく、超越者スキルに超越者スキルを――ぶつけてくるつもりだ。僕とナコも皆の治療が間もなく終わる。

 今、全てが最終局面へと――向かっていた。



 ――「行くよっ!」「行くでっ!」



 忍者と武者、決着の時が――迫る。

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