第261庫 大人の場 その2

「……ホムラ、大丈夫?」

「んっ? なにが?」


 杞憂だったか。

 ホムラは普段と変わらぬ表情、特に暴れだす気配もなく――美味しそうにお酒を飲んでいる。

 しかし、フラグはすでに――この瞬間からゆっくりと立ち始めていたのだった。


「イケる口じゃないか。こっちの酒もオススメだぞ」

「えー、いいの? ありがとう。ニャンちゃんが不在だから、今夜はとことん飲んじゃおうかな」

「ホム、これも美味しかったわよ。フルーティーな香りと味わい、炭酸水で割ると飲みやすいわ」

「本当だっ! 後味が爽やかだねっ!」


 カレアス、ゴザルがホムラにどんどんお酒を注いでいく。

 僕もウィンウィン滞在時、お酒は一通り嗜んでいたのでわかる。確かに、甘口で飲みやすい種類は多いのだが――度数がめちゃくちゃ高い。

 その飲みやすさに惑わされると――泥酔待ったなしである。


「……ねえ、ソラちゃん」

「ん?」

「ソラちゃんの顔って――めちゃくちゃ綺麗だよね」

「急にどうしたの? でも、ありがとう」

「もっと近くで見ていい?」

「……別に構わないけど」


 不意に、ホムラが僕の側に寄って来る。

 ホムラは普段、目の部分にだけ仮面を好んで着用している。そのため、表情は読みにくいが――さすがに、頬が真っ赤に染まっているのはわかった。

 あ、これ――完全に酔ってるね。


「ホムラ、お水も飲もうか」

「ん、飲むね」


 意外に素直である。

 ホムラはこくんと静かに頷き、お酒を飲むのを中断――僕の言葉に従う素振りを見せている。

 まさか、これが嵐の前兆とは――誰が予想できようか。

 僕はグラスにお水を注ぎ、ホムラに手渡そうとしたのだが――ホムラがゆっくりと首を振り返す。


「ソラちゃんが飲んで」

「えっ? 僕が?」

「飲んで――今すぐに飲んで」

「は、はい」


 謎の威圧感、僕は水を口に入れる。

 その瞬間、ホムラが僕の顔を両手で鷲掴みにする。一体、なにが起きたんだと理解するより早く――僕の舌をなにかが這いずり回る。

 体液ごと全て奪い去る勢いで、ホムラが僕にキスをしていた。


「んん、むぐっ!」


 抵抗しようとしたが、身体が微動だにしない。

 いつの間にか、ホムラの精霊召喚――僕の全身に光がまとわりついていた。精霊の力を使って無理やり拘束しているのだろう。

 助けを求める視線を送るが、突然の出来事に――ゴザル、カレアス、グラスを片手にフリーズしていた。

 ホムラはペロッと舌を出しながら、


「ソラちゃんの水――美味しい。もっと、もっと、私にちょうだい」


 姉妹だぁ。

 その熱の込もった扇情的な瞳は――今はゆっくり就寝中、とある人物を彷彿とさせるのであった。

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