第260庫 大人の場 その1

「クーラ、おめでとう」


 会合の終わった晩、カレアスが大量の酒を手に――ホームを訪れた。

 開国が認められたことのお祝いに駆け付けて来たようで、今日はゆっくり一杯やろうとのことだった。

 僕は喜んでカレアスを迎え入れる。

 この王様、気軽に遊びに来ているが――格好から推測するにお忍びに違いない。護衛の騎士の方は毎度大慌てしているのではなかろうか。

 カレアスは僕の心配を他所に、気持ちよさ気に酒をあおる。


「くはーっ! 友と飲む酒は最高だなっ!」

「また度数の高いお酒ばっかりだね」

「あっはっは。ウィンウィンは酒豪が多いのは知っているだろう」


 カレアスは愉快に笑い、新しい酒瓶を開きながら、


「ライカ、ナコはもう寝ているのか?」

「寝ているよ。やっぱり、まだまだ夜の睡魔には勝てないお年ごろだ」

「成長期の時分、よく寝ることは素晴らしい。あの二人は――大人になったら驚くくらいに美人になるだろうな」


 その時、ホームのリビングに足音が響く。


「あら、カレアス――また来ているのね。王様が夜にブラブラ遊び歩いて怒られたりしないの?」

「あっはっは、固いことを言うな。ゴザル、お前も一杯どうだ?」

「そうね。気分的に――いただこうかしら」

「気分的? どうかしたのか?」

「どうかしたもなにも、あなたも最前線で見ていたでしょう? 散々殴られて鼻血垂れ流して――乙女としては見せたくない光景だったわ」


 ゴザルが注がれたお酒を一気に飲み干しながら、


「次こそは――絶対に、絶対にリベンジしてやるっ!」


 グラスが割れるかの勢いで机に叩き付ける。

 まずい話題を振ってしまったと、カレアスが3歩ほど後退しながら――恐る恐る、ゴザルに問い掛ける。


「け、剣聖は――クーラの妹もここにいるんじゃないのか?」

「もういないわよ。あの子、お兄ちゃんが見つかった事実がわかると――次はママとパパを探すって飛び出していったわ」

「……僕の妹、行動力がすごくてね」


 ウォータスの騎士は即辞職と話していた。

 琴葉は超絶ブラコンではあるが、家族愛も異常なくらいに強い。僕の生存が確認できた手前――順番的には両親なのだろう。

 ゴザルはカレアスにおかわりを注がせながら、


「正直、私もまだ立っていたから――勝敗はわからなかったと思う。でも、あの余裕な態度を見たら勝ち逃げをされた気分よ」

「まあまあ、ゴザルも十分に強かったぞ」

「……ゴザルもってなによ、ゴザルもって」

「いや、そういう意味じゃなくてだな」

「どういう意味よ」

「えぇっとぉ」


 カレアスがさらに後退する。

 最早、壁際――逃げ場がなくなっている。ゴザルに圧倒されて、今にも泣き出しそうな顔付きである。


「ゴザル、一応――王様だから手加減してあげてね」

「クーラ、一応ってなんだっ! フォローになってないだろっ?!」

「あー、お酒飲んでるのっ? 混ぜて混ぜてよーっ!」


 空気を一転するよう、ホムラが場に参加する。


「おーっと、飲んでくれっ! ほらほら、酒は大量に持ってきたからなっ!」


 チャンスとばかりに、カレアスがホムラに駆け寄る。


「えー、お酒飲むの久しぶりだなぁ。いつもニャンちゃんにとめられてたから、あんまり飲む機会なくってね」


 その言葉に――過去の記憶が蘇る。

 以前、安らぎの満天でも――ニャニャンは全力でホムラの飲酒を阻止していた。いやもうこれ、完全にフラグ立ってるよね。


「ホムラ、ちょっと待っ」

「ぐびぐびぐび」


 制止間に合わず、ホムラが豪快に――酒を流し込むのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る