第258庫 異常なまでの兄妹愛

 剣聖が妹で――妹が剣聖である。

 じゃあ、僕のメインキャラは――誰が入っているんだ? 頭の中がこんがらがって理解が追い付かない。

 剣聖――琴葉は衝撃を殺すよう後方に一回転、


「痛っつうう。本当、馬鹿力の武者は怖すぎるね」

「今のも致命傷にはならないのね」

「鎧がなかったら――危なかった。素直にすごいよ、最後の最後まで諦めない姿勢は嫌いじゃないかな」

「ええ。足掻くのは――大好きなの」


 と、ゴザルは一拍置いて、


「あなた、ソラに似ているのね」

「えっ? そんなに似てる?」

「兄弟――いえ、今は姉妹かしら。そう言われても不思議じゃないわ」

「えーっ! 嬉しいっ!! やっぱり、私とにぃにはいくら切っても離せない――繋がりがあるもんねっ!」


 琴葉がぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「……にぃ、に? 繋、がり?」


 ゴザルが唖然とした顔付きになる。


「あ、でも――にぃにの障害、私の邪魔をするやつを消し去るのは継続するよ。覚悟はできたかな」 


 琴葉が剣を構え直す。

 このままでは、双方どちらかの命が尽きるまで――とまらない。

 だが、妹とわかった以上僕の方に分はあった。


「それ以上すると、嫌いになるぞ――琴葉っ!」

「びぇっ?!」

「嫌いになる」

「ど、どうして、そんなこと言うの?」

「僕、お兄ちゃんから卒業しろって何度も言ってるよね」

「えぇーっ! できないできないっ!! 私はにぃにがいればそれでいい、にぃにと結婚するんだもんっ!」


 琴葉は自他共に認める――超絶ブラコンである。

 高校生の年ごろとなった今でも、四六時中僕の側から離れなかった。もとの世界では暇さえあれば膝の上に乗っていたのだ。

 正直、異常なまでの――兄妹愛だった。

 将来が心配になるほどに――そんな僕からの言葉に、琴葉は驚くくらいに感情を揺れ動かす。

 あまり、心を突くような真似はしたくないが――今は仕方ない。


「結婚しないよ」

「マジで?」

「しない」

「しょ、小学生のころ、私と約束したよねっ!」

「だったら、お兄ちゃんの言うこと聞いてほしいな」

「聞く、聞くから――そんなこと言わないでっ!」

「琴葉、絶剣の紋を解除してくれ」

「する、するからっ!」


 琴葉がワンワン泣きながら――僕に抱き着いて来る。

 カレアスとイワンドゥは、突然の出来事に呆然としていた。

 ゴザルも刀を構えたまま、目を点にしている。

 カレアスが現状を見てポツリと、


「クーラの一人勝ちだったか――これは読めなかったな」

「横に同じく」


 王たちの賭けは――無効となるのであった。

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