第211庫 ご馳走様でした

「妾を暴食で喰らえ」


 とんでもないことを言い出した白雪。


「師匠、冗談はやめてほしい」

「妾が冗談を言っているように見えるか?」

「そもそも、暴食は生きているものを喰らうことはできない」

「それは進化する前の話だろう。安心しろ、暴食は――生きているものも喰らうことができる。ただ一つ難点があってな、喰らわれる側が許可する必要がある」

「どちらであろうと、師匠を喰らうことなんてできるわけがない」


 喰らってしまったら――白雪はどうなる?

 僕の表情を見て察したのか、白雪が優しい笑みを浮かべながら頭をなでてくる。

 急なお姉さん風の態度に、僕の目が思わずパチクリとしてしまう。

 いやまあ、お姉さんといえば――お姉さんになるけれど。


「最大級のパフォーマンス、ある条件を満たす話だが、暴食はスキルの持ち主を喰らうことによって――吸収したスキルを習得することが可能となる」


 白雪は言う。


「貴様に妾の至高のスキル――"絶対炎凍球"を授けてやる。修行完了の贈り物、ありがたく受け取るんだぞ」

「……師匠」

「クーラ、今から妾の言うことを――己の核に刻めよ」


 了承しない僕に、白雪が詰め寄る。


「フレイムドルフという男を倒しに行くのだろう? そのために厳しい修行をしてきたのだろう? 強くなれる機会を逃すな、一人の命とたくさんの命、いつか必ず選択する時が来る。その瞬間も貴様は臆病な態度を取り続けるのか?」

「……っ」

「妾の先ほどの言葉を思い出せっ! 雌がここまで言ってるんだぞっ?! 雄ならドンッと行かないか――恥をかかすなっ!!」


 胸に響く言葉だった。

 白雪らしい暴論に――自然と笑みがこぼれる。

 僕は覚悟を決めて、白雪に触手の先端を向けた。


「暴食。師匠――白雪を喰らうんだ」

「ああ。妾という上物を喰らうこと――許可しよう」


 暴食が口を広げ、白雪の全身を覆い尽くす。

 その姿が消え去る直前、白雪が僕に向かって――パチっとウィンクをし、満面の笑顔を浮かべた。


「にはは、貴様と過ごした日々――楽しかったぞ」



 ――《 絶対炎凍球 》を習得。



 脳内に響くアナウンス。

 暴食を通して僕の全身に伝わっていく満腹感――それは、白雪を喰らったという事実に他ならない。


「……こんな時、ご馳走様って言葉は正しいのかな」


 白雪は――僕の身体の一部となった。

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