第194庫 伝説のジョブ
情報共有の場には局長と風花さん含め、何人かの隊員が同席していた。
こちらが話しやすい空気を作るためか、局長が自分からと手を上げる。
その心遣いに僕は二つ返事で了承した。
「これが大陸図じゃ。その名を『モーエン』という」
「……萌え?」
「モーエンじゃ」
局長が地図を広げる。
モーエン大陸は――とても小さな島国ということがわかった。
皆が笑顔で平和に暮らしているのも納得できる。
何故なら、陽の国サンサン以外に国がなかったのだ。
大陸図のど真ん中に位置しており、その周囲はまだ未開の地も多く、全てを把握しきれてないという。
他国からの侵略の恐れもない、争いとは無縁の国――局長曰く、モンスターの生息域が非常に広範囲で、生活できる範囲は限られているとのことだった。
「だから、ハンターという稼業があるんですね」
「クーラ殿はすでにハンターを耳に入れておったか。ワシを含めた紅桜組の隊員全てハンターの資格を持っておるぞ。この国は人同士で争っている余裕などない、モンスターが常に猛威を奮っている状態じゃ」
局長は言う。
「サンサンにモンスターが襲撃して来ることもある。ワシたちは命を懸けて――国を守るために動いておるのじゃ」
「失礼ですが、サンサンにジョブという概念はありますか?」
「無論、戦えるジョブは全て武者じゃな。他のジョブは生産職以外にはおらぬ」
手持ちの武器から予想はしていた。
しかし、全員が武者か――脳筋集団にもほどがある。モンスター相手に回復役なしは捨て身なんてレベルではない。
「ヒーラーはいないのですか?」
「ヒーラーとはなんじゃ?」
「怪我を治すことができる回復役のことです。僕たちの国ではそう称されていました」
「姫様は回復魔法を使うことができるぞ」
合点がいく。
ただ一人、回復が可能な存在――サンサンではそういうことなのだ。君主を守り抜くということは、文字通り自身も含め国を守ることに繋がる。
この仕組みというか形態――いや、まさかな。
「クーラ殿の話から察するに、主の国には回復魔法を使うことができるものがたくさんいるのだな」
「います。僕も多少は回復も可能ですね」
「ちなみに、クーラ殿のジョブはなんじゃ?」
「触術師です」
「ふむ。初めて耳にするジョブじゃのう」
局長含め、皆が不思議な顔をする。
そりゃそんな反応にもなる。僕たちのいた大陸でも希少なジョブ――ユニーク職だ。
僕はわかりやすく、触手を展開して皆に見せる。
「な、ななっ、黒光りしていて――なんてキモさだっ!」
風花さんが叫んだ。
続けて、他の隊員たちも騒ぎ出す。わかっていた、こういう反応になるってのはわかっていたさ。触術師ってどこにいっても敬遠されるよね。ナコとゴザルはなにも言わないから気にしていなかったけど――これが普通なんだ。
僕が悲しい目をしたせいか、風花さんがハッとした顔付きにて、
「クーラ殿、違うんだ。無意識に言ってしまったが――違うんだ」
「風花さん、なんのフォローにもなっていませんよ」
「ち、ちなみに、ライカ殿のジョブはなんなのだ?」
風花さんが話題を転換する。
「ライカのジョブは忍者だよ」
「「「「忍者だってっ?!」」」」
この場にいた全員が絶叫する。
な、なんだ、この想定外の反応は――触術師なんかとは比にならないくらい、皆の顔が鋭くなっている。
風花さんが緊張した面持ちでライカの肩に手を置き、
「サンサンに伝わる――伝説のジョブではないか」
「えっ? ライカ伝説だったの?」
ライカが気の抜けた声でそう返すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます