第169庫 オーバーキル

「ハッピー、私に運命を切り開く力をちょうだい」


 黒い波動がハッピーに集中していく。

 ナコの強大な魔力により、要塞内が震動する。溜めに溜めた一撃――間もなく、大砲が発射されようとしていた。

 ナコはハッピーを大きく振りかぶり、


「大闇斬っ!」


 暗黒が疾走する。

 それは全てを飲み込まんとする勢い、目にもとまらぬスピードで――一直線に中枢へとひた走っていった。

 遠くから、爆発音が鳴り響く。



 ――《 2、1、ゼ、…… 》



 アナウンスがゼロを刻む直前――停止する。

 その意味が指す答え、僕たちが今生きているということ、それこそが全てを物語っていた。


「……爆発、しない?」

「……成功したみたいだわ」


 僕の呟きにゴザルが頷き返す。


「私、お役に立てたでしょうか?」

「すごいよ、ナコっ!」


 僕はナコを抱き上げ、その場で回転する。

 大量の魔力をぶっ放しておいて、ナコはまだ余裕のある顔付きをしていた。魔法少女というジョブは本当に謎である。

 だが、今は結果よければ――よしとしよう。


「ふふ。クーラ、もっとほめてください」

「ナコさん、最高っ!」

「クーラにほめられると嬉しいです」


 ナコが嬉しそうに笑う。

 自爆に巻き込まれ、全滅するという最大の危機は去った。フレイムドルフという世界の脅威も消えた。

 あとはもう――撤退するのみだ。


「ソラ、ナコちゃん、水を差すようで悪いんだけれど――まだまだ喜ぶのは早いかもしれないわ」


 ゴザルが頭上を見上げながら、血の気の引いた顔で言う。


「このままだと、要塞が崩壊するわ」

「「えっ」」


 僕とナコの声が自然と重なる。

 ナコの一撃は想定を遥かに超えて強く激しく、この堅固な地下要塞の耐久力すら圧倒してしまったのだろう。

 嵐の前の静けさだったのか、要塞全体が揺れ始める。

 一難去ってまた一難――要塞のあちこちが崩れ落ち、僕たち目掛けて落下してくるのであった。

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