第167庫 決着の時

 蒼と朱の光の交錯。

 ゴザル、フレイムドルフの立ち位置が入れ替わっていた。二人は交差したまま、静止画のように動かない。

 数秒の間を置き、ゴザルが血を吐き出す。


「……か、はっ」


 腹部が弾け、火傷のような斬り傷が残されていた。

 ポタポタと、床を濡らす血の音だけが響き渡る。ゴザルがゆっくりと納刀――その瞬間、勝負は決したのだと理解できた。


「……見事だ」


 フレイムドルフが呟く。


「今の刹那、悠久の時を感じたぞ。我の人生に置いて最高のひと時であった」

「あなたは強かった」

「謙遜するな、誇れ」


 フレイムドルフの身体がズレていく。


「現時点では、武者ゴザル――お前の方が遥かに強かった」


 ゴザルが勝った。

 フレイムドルフは胴体を真っ二つに――そのまま大量の血の海に溺れる。それはまるで全てを出し切って燃え尽きた跡のようにも見えた。


「……ゴザルっ!」

「お侍さんっ!」


 僕とナコは思わず、ゴザルに駆け寄り――抱き付く。

 ゴザルがやってくれた、フレイムドルフという世界を揺るがす脅威を――消し去ってくれたのだ。

 僕たちが歓喜ですり寄る中、ゴザルが真っ青な顔にて、


「ちょ、ちょっと待って。け、怪我、がはぁっ!」

「「ごめんなさい」」

「ソラ、触診で治せる?」

「うん。それくらいの魔力なら残ってるよ」

「お願いするわ」


 触診、白い糸をゴザルに繋げる。



 種族      人族

 コンディション 腹部損傷

 スリーサイズ  B78(Cカップ)

         W56 H77

 最近の喜び   ソラに抱きつかれたこと



「ねえ、この心情まで表示されるの本当にどうにかならないかしら?」

「そういう設定変更はないみたいだね」

「クーラ、なんて表示されているんですか?」


 表示はあくまで僕と繋げた相手にしか見えない。


「ああ、僕に抱きつかれて嬉し」

「ぃ、言わなくていいのっ!」

「んもがっ」

「お侍さん、そんな動いて痛くないですか?」

「えっ? みぎゃああ、痛い痛い痛いっ!」


 自覚したのか、ゴザルが悶え転がる。

 僕は触診に魔力を通し――ゴザルの腹部を治療する。

 先ほど、僕自身が受けたダメージは最低限に回復、動ける範囲だけにとどめている。

 これ以上の魔力の使用は意識を失ってしまうからだ。

 もう少し、傀儡糸のコストパフォーマンスがよくなればいいのだけれど――少しずつ改善はしているものの、まだまだ改良の余地がありそうである。


「よし、これで問題なく動けると思うよ」

「ありがとう、助かったわ」


 フレイムドルフは倒した。

 あとは無事に脱出して――ニャニャンにどういうことだったのか、詳しく話を聞く必要がある。僕はニャニャンを信じている、信じたいが――万が一、最悪の事態も頭に入れておかねばならない。

 そうなると、一緒にいるホムラが気になるところだ。

 僕たちはフレイムドルフの遺体を一度確認する。

 真っ二つになった身体、フレイムドルフは目を見開いたまま――事切れていた。


「……皆、行こうか」


 その時、要塞内が警告灯のよう赤く点灯し始める。

 どこかで見た記憶のある超絶いやなパターン――僕たちは顔を見合わせる。

 まず、間違いなくよくないことが起こる。



《 主の死亡を確認。自動消滅プログラムを実行、1分後に要塞は自爆します 》



 無慈悲なアナウンス、その予感はすぐに的中するのであった。

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