第160庫 虎と狼

 北側海藻チーム。

 僕たちはニャニャンの指示通りの場所にたどり着く。そこには人が一人通れるくらいの通気口があった。まあ、侵入という形だからある程度の予想はしていたが――想像以上にサイズが小さい。

 下手したら女性の身体でないと無理だったかもしれないな。


「よし、僕が先に入るよ」

「待って、なにかあった時のためにも私が先頭を行くわ。ソラは真ん中、ナコちゃんは最後尾の陣形にしましょう」


 ゴザル、頼もしぃいいっ!

 率先して先頭を貫くスタイル、ゴザルならば安心以外のなにものでもない。加えて、ナコが後ろで構えているとなったら無敵のフォーメーションである。

 同意しながら数秒後、僕はあることに気が付く。


「あれ、僕が真ん中なんだ」

「ナコちゃんの方が総合的に上だからよ」


 ゴザルが簡潔に言う。

 うん、その点については――ぐうの音もでない。でも、もう少しオブラートに包んでくれてもいいんだよ。


「クーラは私が守ります」


 男心に複雑な気分である。

 なんかこう、異世界で無双するとかって一度は思い描くじゃない? まさか、こんな逆に守られるスタイルになるとは誰が想像できようか。

 しかし、この世界に置いて冒険者は実力が全て――現状を受け入れよう。


「それじゃ、侵入するわね」


 順番に通気口の中に入って行く。

 やはり、狭い――僕の視界は全てゴザルで埋め尽くされて、お尻しか見えない状況となっていた。

 このタイミングでゴザルの装備が絶妙に変化している。

 動きやすさを重視したのか、袴の丈の部分がミニになっているのだ。これは目のやり場に激しく困ってしまうというもの、少し頭を下げれば――魅惑のゾーンが容易く見えてしまいそうである。

 だからといって、一方通行――目を逸らせる状況でもない。

 ゴザルが前に進む度、お尻が上下左右に揺れる。催眠術ってこんな感じに理性を崩壊させてくるのかな? 勢い余って顔ごと突っ込んでしまいそうな――そんなアクティブな衝動に駆られる。

 落ち着け、僕――こんな時は無になるんだ。


「ゴザルのお尻がプリプリだぁ」

「「……」」


 無になりすぎた。

 通気口内が衝撃なほど静寂に包まれる。僕のぽろりと漏れた一言が、確実に届いたであろう二人は無言のままであった。

 それもそのはず、侵入最中に大きな声を上げるわけにはいかない。


「誤解なんだ。パンツが見えそうだなって思って」


 僕は小声で取り繕う。

 最早どこら辺が誤解なのかも意味不明な上に、なに一つ取り繕えていないが――静寂に耐え切れず、言わなくていいことを追加してしまう。


「……」


 ゴザルが振り向き、圧を飛ばしてくる。

 あまりの眼光に僕はそっと後ろに視線を外し――ナコと目が合う。

 ナコもジト目でこちらを睨み付けながら、


「……」


 前門の虎、後門の狼であった。

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