第146庫 瞬馬

 セイントラール王宮をでると、空はすっかり夕暮れに染まっていた。

 いつの間にか、かなりの時間が経っていたようだ。

 門兵の方に退出することを伝え、僕とナコはセイントラール王宮をあとにする。


 半壊したホームに戻ると、すでに修復作業に取り掛かっていた。

 さすが、ニャニャンのいう王都腕利きの面子――作業が着々と進行していることが、素人目の僕でも見て取れる。

 そんな中メンバーの一員ですと言わんばかりに、ニャニャンも一緒に声を上げながら材料を運んでいた。


「はぁっ、よいしょぉっ! もういっちょにゃぉおおっ!」


 ベテラン勢に混じって、まるで違和感がない。


「おーすっ! ソラにゃん、ナコにゃん、おかえりっ! 作業も一段落したから場所を移すにゃあっ!」


 僕たちに気付き、ニャニャンが手を振る。

 ニャニャン曰く、ホームの修復完了までは1週間ほど――それまでの代わりとなる滞在場所はニャニャンがすでに確保してあるという。

 僕とナコ、ニャニャンとホムラ、4人で移動を開始する。

 ホームから離れ大通りにでたところ、ニャニャンがシュバッと手を上げ、


「ヘェェエエイっ、タクシーっ! 王都ホクホク通りにある『安らぎの満天』まで頼むにゃあっ!」

「タクシーあるのっ?!」

「ソラにゃん、バカぁ? あるわけないでしょ、ノリで言ってみただけね」

「……」

「ただ、タクシー的な乗り物で『瞬馬』っていうのがあるの。王都は広いからね、移動は速くするに越したことはないのにゃあ。特にこの瞬馬はヤバいよ? もう王都でこれより速い乗り物は存在しないくらいね」


 すると、二足歩行で筋肉ムキムキの馬がやって来る。

 す、すごい威圧感だ。見た目のフォルムは完全に馬だが――二足歩行の時点で馬といっていいのかどうか。

 なんだか、こういう特殊な乗り物って懐かしい。転生したてのころ、アクアニアスで借りた飛車みたいなものだろう。


 僕たちは瞬馬に繋がれた客車に乗り込む。

 これは――速い、王都の景色がコロコロと流れていく。僕とナコはアトラクションみたいで少し怖かったが、ニャニャンとホムラは普段から乗っているのか慣れた顔付きである。


 瞬馬に揺られること数分、目的地に到着したのか――勢いよく瞬馬が停止、その勢いで僕とナコは客車の端から端まで吹っ飛ぶ。確かに、ニャニャンの言う通り――とにかく速い。しかし、もう二度と乗りたくないのが素直な感想である。

 ニャニャンは客車から華麗に飛び降り、


「じゃあーん。ホームが万全になるまでここが代わりの拠点地ね」


 連れて来られた場所は、王都の宿泊施設か。

 なんとも和を感じさせる外観、もとの世界でいう旅館にそっくりだった。いや、そっくりというかそのまんまである。

 中に進むと――まさに日本庭園、鹿威し、池には鯉のような色とりどりの魚が優雅に泳いでおり、風情豊かさを感じさせる。


「すごいな。王都にこんなところがあったんだ」

「あった、というよりは――できた、という方が正しいかもね。ここの経営者、女将を二人に紹介するにゃあ」


 含みのある言い方。

 僕はニャニャンと共に館内に足を踏み入れるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る