第144庫 通報案件
「だ、だったら、私が、クーラの抑えきれない部分をどうにかしますっ!」
ナコの爆弾発言。
静かな王立図書館に、大きな声が響き渡る。周囲の人たちがどうしたどうしたとこちらに視線を向けていた。
女の子が叫ぶシチュエーション、その目の前には成人した男性、もとの世界だったら通報案件レベルだろう。いやはや、今は金髪美少女の姿でよかった。
姉妹喧嘩くらいの騒ぎ、変な目で見られるという可能性は低い。
僕は誤魔化すよう周囲に笑いかけ、ナコの後ろから口を塞ぐ。
「ナコさん、声を抑えて」
「むもがっ」
ゴザルもナコも、どうして同じような発想になるんだ。
同い年くらいのゴザルには、多少なりともそういった感情が湧くけれど――さすがにナコには、ね?
僕はロリコンではな――、
「く、クーラ、苦しぃ、でふ」
「あ、ごめん」
――くぐもった声でナコが言う。
考えごとをしていて口を塞いだままだった。慌てて背後から抱き締めるような形になってしまったので、僕はすぐにナコから手を離す。
息苦しかったのか、ナコの顔が全体的に赤い。
「本当にごめん。苦しかったよね」
「……続きは?」
「えっ」
「続きは、どこでしますか?」
ナコが艶めいた表情で言う。
不覚にも女性らしさを感じ――胸がドキッとする。幼い少女ながら、なにかを期待するようなその仕草は男心にグッと来るものがあった。
周囲に向けて誤解を解くため抱き締める形になったのだが、ナコはそれを僕の返答だと勘違いしたのかもしれない。
ナコの体温がまだ肌に残っている、続きはという言葉がいやでもなにかを連想させてくる。
……僕はロリコンでは、ない?
だ、駄目だ、やめてくれっ! こんな危険な扉を新設してはいけない――ゴザルの言葉を否定できなくなってしまう。
オンリー・テイルの世界では法律的にセーフな年代かもしれないが、僕にはもとの世界のアイデンティティがあるのだ。
もし、このまま――感情の赴くままナコに応じたら?
今後、僕たちの関係性はどうなるんだろうという恐怖と期待――色々なものがごちゃ混ぜになって脳内がバグってくる。
硬直する僕、ナコが僕の胸もとに飛び込み、
「……クーラ、大好きです」
僕はナコの頭をなでる。
ナコがひっそりと呟いた言葉――聞こえるように言ったのか、無意識に口からこぼれてしまったのかはわからない。
僕の耳に届いた気持ち、答えを返すことはできなかった。
今はただ、聞こえていないフリをする。
答えてしまえば――なにかを壊してしまうような気がしたからだ。
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