第110庫 拗ねナコ

 僕たちは城内にあるであろう帰還用転移陣を探す。

 並行して城内も調べてみようという話になった。ゲーム時の基本、新しいエリアではお宝がないかの調査は必須なのである。

 本人からも許可済みなので、ガラスティナ戦の報酬としていただいていこう。


 広い城内を探索するということで、僕とナコ、ゴザルとキャロルさん、2組にパーティーを分ける。

 ガラスティナが不在となった今危険性は低いが、銀色の機械がひょっこりでてくる可能性も考慮し、念には念を入れてペアで進むことにした。


「ゴザルとキャロルさんは右のフロア、僕とナコは左のフロアでいこうか」


 再集合の時間を決めて探索を開始する。

 転移トラップに巻き込まれた後、お互いにどういう経緯でここにたどり着いたのか。城内を歩きながらナコと色々な話をする。ナコとキャロルさんはかなり早い段階で50階に到達、大都市の情報を集めるために動き回っていたという。


「ナコとこうやって二人きりになるのが懐かしく思えるよ」

「……」

「ねえ、ナコ」

「……はい」


 ナコの態度が明らかに素っ気ない。

 知らない間に機嫌を損ねることでもしてしまったのだろうか。

 記憶を遡ってみるものの――全く身に覚えがない。


「ナコ、ごめん。なにか怒らせちゃったかな?」


 僕は素直に聞いてみる。


「……別に怒っていません」

「でも」

「さっき、クーラがお侍さんのことをゴザルって言いました」

「えっ?」

「クーラとお侍さん、なんだか前より仲良くなっている気がします。お侍さんの素顔はビックリするくらいキレイですし、お侍さんはとっても強いですし、私の優っている部分が一つもありません」


 ナコが拗ねたような表情で、ぷっくりと頬を膨らませる。


「私のこと、いらなくなっちゃったんだ」


 な、ナコさぁんっ?!

 拗ねている姿も胸キュン、一挙一動が愛くるしさ全開で気を失いそう。

 そもそも、ナコとゴザルはどちらも驚くくらいに端正な顔立ちをしている。両者共に性格を含めるとジャンル別的なよさがあるというかなんというか。強さだってパーティーなのだから総合的に考えるべきだ。

 つまるところ、誰が優っているとかは全く関係ない。


 ……いらなくなっちゃった、か。


 そんなこと、微塵もあるわけない。

 しばらく離れている間に、寂しさが募ってしまったのだろうか。

 僕は無言でナコを抱き締める。

 言葉より先に態度で気持ちを伝えたいと思ったからだ。


「……クーラ?」

「ナコがいらないわけないだろ。覚えているかな? 必ず君を連れて行くって言ったじゃないか。その約束はこの先もずっと続いていくから」


 それに、ナコは大切な家族だ。

 マイホームにも欠かせない存在、いなくなったらなんて――考えるだけで涙がでそうになる。

 ナコが僕の胸もとに顔を擦り寄せながら、


「……覚えています」

「うんうん」

「クーラがプロポーズして、責任を取ってくれると言いました」

「……」


 ひょぇーっ?!

 ファーポッシ村での話の流れ、ナコの中ではそんな解釈になってるの?! 否定することもできず、僕はただ息を呑む。

 いやまあ、子供心に大人びた考えを持ちたくなる時もあるよね。僕の妹も似たようなことよく言ってたし。

 とりあえず、イエスかノーという確然とした言葉はだせない。僕はナコの頭をなでなでし、空気感に合わせておく。

 機嫌が直ったのか、ナコの尻尾が高速で揺らめいていた。


「ウィンウィンに帰ったら、またゆっくり休暇でも取ろうか」

「はい。魚々助さんにご飯を食べに行きたいです」

「名案だね。ゴザルとキャロルさんも誘おうかな」

「……二人っきりがいいです」


 ナコがギュッと寄り添う手に力を入れる。

 なんだか、素直にヤキモチを焼いている姿が可愛らしい。

 僕はついついナコの反応が見たいがために本音とは別の言葉を発してしまう。


「えー、無事にダンジョンクリアした打ち上げ的なことも皆でしたいなぁ」

「クーラが意地悪します」

「あはは、冗談だよ。打ち上げは別日にして二人でご飯に行こうか。ウィールで乾杯もありかもね」

「わ、私はジュースにします」


 お酒の失敗談は根強く記憶に残っているようだ。

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