第99庫 文明レベル
パラり、パラパラ、僕は本のページを捲っていく。
「料理長マルクのディナーレシピ」
「見たことない文字だけど普通に読めるのね」
「勝手に脳内で変換されるよね。もしかして、これが噂の転生ボーナスかな?」
「もう少し戦闘向きなチート級の力が欲しかったわ」
「ゴザルは今でも十分チート級じゃないか」
「不十分よ」
まだ足りないのぉっ!
これ以上強くなってどうするつもりなんだろう、オンリー・テイルのラスボスでも目指してるのかな。
「うわー、美味しそうなレシピがいっぱい載ってる! でもなんか見たことも聞いたこともない素材ばっかりだ。このチョッカクって角ばった魚、お刺し身にしても塩焼きにしても最高って書いてあるよ。食べてみたい、どこで手に入るんだろうっ!」
「……」
「こっちのお肉レシピもすごいな。初心者の方にも優しく、明確に焼き時間が書かれている。意外と最初はこういう細かい部分が気になるんだよ。マルクさんって人は偉大な料理長だったに違いない」
「ふっふふ、あはっ、あはは」
「急に笑い出してどうしたの?」
「だって、ソラったらご飯のことばっかりなんだもん。もっと現在地の情報が載った本を探さないとじゃないの」
「そ、そうだったね。この本はアイテムボックスに入れてあとで読もうかな」
「ソラ、こっちの本棚はどうかしら?」
隣の棚、ゴザルが何冊かの本を取り出す。
流の王国ウィンディア・ウィンド、ガラスティナ戦記、料理長マルクのランチレシピ、どれも興味を引くタイトルである。
順番に、僕は料理長マルクの本を手に取ろうとし――ゴザルに制止される。
「ソラ、マルクは後回しにしなさい」
「この流の王国ウィンディア・ウィンド、偶然同じ名前だとは思えないな」
「そうね。なにかしら繋がりはありそうだけれど――不思議なのは建造物、さっきの銀色の丸い機械、どこを取ってもここの方が近代的なのよね」
ゴザルの言う通りだ。
僕たちはさらに建物の奥に進み――驚くべき場所を発見する。講堂のような大きい部屋があり、真ん中にはモニターが設置されてあった。
試しに、モニター近くにあったスイッチを押してみる。
プツンと画面が一瞬灰色になり、模擬戦のような映像が流れ出した。何組かのパーティーが剣と魔法で戦いあっている。
その映像のそこかしらに、ここはどう動いたら正解なのか、どの角度で魔法を打ったら正解なのか、説明付きでテロップが流れていた。
「これ、地上と文明レベル違いすぎない? 転生前、もとの世界に近いレベルだよ」
「技術が地下に眠ったまま地上にでることはなかった、なにかの事故で文明が途絶えたという説が妥当な気がするわ」
「地上と名前が一緒なのは、誰かが生き残った名残りなのかもしれないね」
あくまで、今は憶測に過ぎない。
だが、こうして繋がりを想像していくことは大事だ。なにも考えないまま進むより未知の可能性を想定することができる。
ゴザルは常に刀が抜けるよう柄に手を置き、
「警戒度を上げましょう。銃なんて出てきたら大変よ」
剣と魔法のファンタジー。
そんな世界観を遥かに上回る領域、文明という想定外の事態が僕たちに襲いかかろうとしていた。
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