第86庫 使い魔の契約

「無の刃――神威!」 



 蒼き閃光。

 闇属性と無属性、双方道を譲らぬパワーのせめぎ合いに、白虎の間が本気で崩落しそうな勢いである。

 均衡状態、勝敗は――力尽くで決された。


「う、お、ぉ、りゃぁああああああああっ!」


 ゴザルさんが暗波のど真ん中を斬り開く。

 暗波は2つに分断され、白虎の間の一部を粉砕した。もし魔力の集約された暗波が一箇所に当たっていたら――、


「危ないわね、全員生き埋めになるところだったわよ」


 ――ゴザルさんの言う通りである。


「お侍さん、ごめんなさい」

「ナコちゃんは悪くないわ。白虎が変に真価を判断するとかどうとか、格好つけたこと言うからこうなったのよ」


《 鬼武者さん、助けてくれてありがとう 》


 白虎が潤んだ瞳で言う。


「キャラ変わりすぎよ! 威厳に満ちた口調と態度はどこにいったのよ?!」


 呆れた風にゴザルさんが返す。

 度重なる恐怖に白虎の色々な面が崩壊してしまったのだろうか。

 さあ、結論のほどはいかに? ナコが白虎のもとに駆け寄り、


「白虎さん、私は合格だった?」


《 合格どころか、偉そうなこと言ってすいません 》


 即答。

 白虎が平伏すように、ナコの前で身を屈める。

 い、萎縮しすぎて白虎の性格が完全に変わっている。

 しかし、付いてきてもらうのはいいのだが大きすぎるような。この図体に加えて、白昼堂々モンスターを街中連れて歩くわけにもいかない。

 どうしたものかと悩んでいるところ、


「じゃあ、白虎さん――私の使い魔として契約してくれるかな?」


《 マスター、よろしくお願いします 》


 ナコが白虎の額に手を置く。

 黒い魔法陣が展開され、瞬く間に白虎がその中に取り込まれていった。この状況を見たらさすがにどういうことかは理解できる。


「ナコの新スキル"使い魔"って、そういうことだったのか」

「はい。白虎さんとお話した時、スキルのイメージが浮かびました。一緒に行くことができるってわかったんです」


 モンスターを契約のもと使役することができる。

 その中でも強敵と名高いネームド、上級ダンジョンの主と契約してしまうとは規格外にもほどがある。

 ナコは黒い魔法陣を再度展開し、


「白虎さん、私のもとに――来てっ!」


 現れた白虎はめちゃくちゃ小さかった。

 両腕に収まるくらいのお人形サイズ、なんか威厳のあった顔付きもデフォルメされていてとにかく可愛らしい。

 このサイズならば、一緒に来てもらっても問題はないだろう。


《 改めまして、これからよろしくね 》


「きゃあああぁっ! な、なにこれ――可愛いすぎる! やだやだ、ナコちゃん触ってみてもいいっ?!」


 ゴザルさんが叫び出す。

 そういや、ポケットハウスにも大量の人形が置いてあったもんな。あの内観から察するにゴザルさんは可愛らしいものが大好きなのだろう。

 ナコの許可を得る前にゴザルさんが白虎を抱き締めながら、


「欲しい欲しい、私のお家に欲しいっ!」


《 ぉ、鬼武者さん。ちょっとパワーが強すぎるよ。あと頬擦りやめて、兜で毛が擦り切れちゃう 》


 青ざめた顔で白虎が呟く。


「ねえねえ、ナコちゃん。名前はどうするの?」

「お名前、お名前ですよね」


 うーん、とナコが目を閉じる。

 ナコは魔装兵器にもハッピーって名付けていた。個性を感じるネーミングセンス、はたして今回はどうなるのか。

 一分ほどの間、ナコがパァッと目を開き、


「ニャンシロにしますっ!」

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