第80庫 謎の訪問者

「私がでる。万が一があったらすぐに逃げて」



 万が一とは、プレイヤーのことを警戒しているのだろう。

 ゴザルさんが指を立てて合図する。

 3、2、1、ゼロ――扉を蹴り飛ばし、勢いよく外に飛び出した。


「めちゃくちゃ痛いのですーっ!」


 同時、悲鳴が響き渡る。

 扉ごと弾き飛ばす牽制、ゴザルさんは追撃の手を緩めることはせず――訪問者に覆い被さる形で容赦なく刀を突き付ける。

 ゆるふわな赤い髪、小さく華奢な体躯、これまた珍しい種族の子であった。


「あなたはプレイヤー? 私たちになにか用かしら?」

「はわわ、殺さないでほしいのです。自分はただ同じキャンプ地に誰かがいると、挨拶しようと思っただけなのです」


 ミニム族の女の子が降伏するよう両手を上げる。

 ミニム族とは小柄な体型に頭頂部に生えた一本角が特徴となる種族だ。ゲーム時はよく可愛らしい小鬼と称されていた。

 小さい種族には全て共通することだが、装備時のグラフィックが見えづらいため、あまり人気のある種族ではなかった。

 ゴザルさんは刀をさらに近付けながら、


「もう一つ、全部の質問に答えて」

「ぷ、プレイヤーなのです。自分は、自分はなにも――ぴえんっ」


 ゴザルさんの圧に耐えきれなくなったのか、ミニム族の女の子が泣き出す。

 ポロポロと頬を滴り零れ落ちていく大粒の涙、奇抜な兜姿とシチュエーション的にゴザルさんが極悪人に見える。


「ちょ、泣かないでちょうだいっ?!」

「ゴザルさん、その子は本当に挨拶に来ただけっぽいよ。あそこにあるテントが真実だと思う」


 ポケットハウスの近く、テントが張られていた。

 僕はミニム族の女の子に歩み寄り、


「驚かせてごめん。怖い兜のお姉さんも悪気があったわけじゃないんだ。万が一のことを考えて行動してくれただけでね」

「ねえ、今私のこと怖い兜のお姉さんって言った?」


 ゴザルさんはスルー、僕はミニム族の女の子の身体を起こす。


「……はう、私も深く考えずごめんなさいなのです。この深いダンジョンの奥地、同士の方がいると思って浮かれてしまったのです」


 ミニム族の女の子はビッと敬礼しながら、


「自分はキャロルと言います。ジョブは盗賊、各地のダンジョンを巡って隠し要素を探すのが趣味なのです」


 僕たちも各々自己紹介をする。


「優しいクーラさん、黒猫のナコさん、鬼兜のゴザルさんですね。よろしくお願いしますのです」

「……鬼、兜?」

 

 何気ないキャロルさんの一言に、ゴザルさんがピシッと固まる。


「はわわ、悪気はないのです。ついつい感じたままの言葉が飛び出してしまったのです」

「……ふん。別に鬼兜でいいもん」


 拗ねたゴザルさんに代わって、僕が質問を投げ掛ける。


「キャロルさんはソロでこのダンジョンに来たの?」

「はいなのです。ゲーム時から基本ソロプレイばかりしていました。気が付いたらこの世界にいたのですが、これも天命と開き直って楽しもうと思った次第です。もともと自分は旅行とか大好きでしたので、異世界ライフ充実してます」


 意外と楽観的な思考の持ち主であった。


「ご挨拶代わりといってはなんですが」



 ネーム   Carol

 ジョブ   盗賊(レベル103)

 種族    ミニム族

 保有スキル 盗む 状態付与 隠密 クラッシュ 瞬足 全感知 鬼回避 零の呼吸



 キャロルさんがステータス画面を開示する。


「少しでも信用に値すれば嬉しいのです」

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