第49庫 魔力
マリーちゃんの一件以来、ナコの正義感に火が付いた。
今日まで一緒に過ごしてきてわかるが、ナコはとても優しい心の持ち主だ。
自分よりも他者をという想いが非常に強く、今は心身共に驚くほど成長し、誰かを助けることが普通にできる。
そんな気持ちが大きくなってしまったのだろう。
「クーラ、今日はこのクエストにしましょう」
ボロボロの依頼書、明らかに放置されているものを率先して手に取る。
ここ最近、この手のクエストを連日こなしていたりする。
こういった依頼書は街の住人の困りごとであることが多く、報酬金と内容が釣り合っていないため冒険者が受けることが少ない。
そういったクエストを僕たちは片っ端からクリアしていた。
住人と会話する機会も増えて自然と仲良くなっていく。
僕たちギルド"Kingly"はウィンウィン内にて知名度が急上昇していた。
街を歩けば、必ず誰かが声をかけてくる。
「ナコちゃーん、この串焼き食べて力付けて行きなよっ!」
「ありがとうございます」
「ナコお姉ちゃん、マリーと遊ぼっ!」
「クエストが終わったらね」
「ナコ様、愛してるぅううっ!」
「無理です」
アイドル並に大人気である。
ナコがたまに報酬金が少ないことを申しわけなさそうに相談してくるが、今はこの方向性で問題ないと話し合っている。
正直、ランクを上げることだけが目的なので報酬金はどうでもいいのだ。
FからEにランクアップするためには数をこなすしかない。
クエストをクリアし評価を上げて、一定の基準を達成することで、ランクアップクエストを冒険所から打診される。
それを無事にクリアすれば晴れてEランクだ。
そろそろランクアップの話はでてきてもおかしくはない頃合い、今日も今日とて僕とナコは『街の便利屋さん』としてクエストに向かう。
「今日は羊のお肉を4頭ぶんです」
「よし、半々で手分けしてやろうか」
グリーンラム草原に来るのも何度目か、僕とナコは周囲にいる羊を狩りに行く。
手慣れてきたもので、僕はサクッと触手で急所を破壊し2頭ぶんをゲットする。
残酷ではあるがこうなると『羊の肉』というアイテムに早変わり、アイテムボックスに収納することが可能となる。
ナコの方はどうなったかなと様子を見に行こうとした時、全速力で走る羊が僕の目の前を通りがかった。
ナコがその羊を追いかけていたようで、
「飛べ、暗波!」
「ほわーっ?!」
「クーラ! 駄目、危ないっ!!」
タイミング悪く、ナコの暗波――黒い波動の射程内に僕が入り込んでしまう。
僕は慌てて触手を展開、暗波をガードする。暗波は僕の触手を半分くらいふっ飛ばすという破壊力、ガードが間に合わなかったらと思うとゾッとした。
「クーラ、大丈夫ですかっ?!」
「大丈夫だよ。触手の破損も出し入れしたらもとに戻せるから」
と、触手を解除した瞬間だった。
急な眠気により僕はその場に膝をつく。なん、だこれ? 身体も異常に重たく、内側からなにか抜けていくという感覚がすごい。
「クーラ、どうしました?」
「少し立ち眩みが――もしかして、いや、そうなのか」
僕は丸太くらいの大きさの触手を展開する。
もと通りになった触手、破損した箇所はすでに修復されている。ずっと疑問に思っていたことが繋ぎ合わさろうとしていた。
「ナコ、この触手を真っ二つにしてくれないか?」
「真っ二つ、ですか?」
「魔力がどこに使われているかわかったかもしれない」
「本当に斬ってもいいのでしょうか?」
「一秒でも早く知りたいことなんだ」
「わかりました」
ナコが黒い波動をまとい、僕の触手を一刀両断する。
分断された上部が黒い粒子となって消えていく、触手を斬られた瞬間は僕に痛みや異常は特にない――残った部分の触手も動かすことは可能だ。
――触手を解除する。
瞬間、先ほどよりも強力な眠気――予想通りにそれは来た。
これは魔力を失ったことによる欠乏症かなにかだろう。
僕は確信する。
間違いない、僕の触手は魔力により形成されている。
触手が傷付き損傷したりすると、解除時に僕の内部で修復が開始され、魔力が消費される仕組みになっているのだ。
「クーラ?! クーラっ!」
謎は解けたが、とにかく眠い。
これは魔力を消費しすぎた結果なのか、ナコの心配する声がどんどん遠くに、僕は抗えぬ睡魔にそのまま身を任せるしかなかった。
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