第43庫 ハッピーのアドバイス

 休暇も満喫して気分一新、僕とナコは鍛錬場に赴く。

 魔法少女になった際、ナコに力のコントロールを覚えてもらうためだ。

 弱いモンスター相手に練習してもよかったのだが、変に狩場を荒らして目立つのもどうかと思い専用の場所を用意した。


 ……お金があるって素晴らしい。


 もとの世界では想像もつかぬ、パワープレイならぬバブリープレイ。

 過保護と言われても構わない。

 ナコの成長に繋がる投資ならばいくらでも積もうじゃないか。


「はぁあああっ!」


 ターゲットに向かってナコがハッピーを振るう。

 ターゲットは破壊しても時間が経過すればもとの状態に修復される。

 これはスライムの素材をベースにし、再生機能を促しているとキローヒさんは言っていた。


 ゲーム時もホームに鍛錬場は設置でき、ターゲットに向かってスキルのコンボ練習などは可能だった。

 壊したターゲットがもとに戻るのは当たり前だったし、何故もとに戻るかなんて想像したこともない。


 リアルとなった今、ここにはそういった過程が正確にある。


 全ての事象には理由があり――中身がきちんと存在するのだ。

 僕はオンリー・テイルが大好きで公式ファンブックなど情報誌の大半は読み込んでいたが、実際に見て学ぶこと以上に勝るものはないだろう。

 この世界で生きていく限り大小関係なく知識は大事に得て、さらに肉付けしていくことは決して無駄にはならない。


「ナコ、力加減はわかりそう?」

「冒険所カードの時と同じよう魔力を意識してみたのですが、その放出量に応じて威力が上下するようです」


 ナコがターゲットに攻撃を重ねる。


「この放出量だと斬れません。この放出量だと――斬れます」


 超絶天才がいるぅっ!

 ナコはすでに感覚を掴み取っていた。子供の成長力ってすごいな――ナコはさらに驚くことを僕に見せてくれる。


 ターゲットから距離を取り、ナコがハッピーを脇に構える。

 薙ぎ払い一閃。

 波状に黒い波動が放たれ、鍛錬場内にある全てのターゲットが粉砕した。


 ……遠隔攻撃までマスターしていらっしゃる。


 この黒い波動は要塞型ゴーレムの時にも見た記憶があった。

 魔法少女というからには、魔法に関するスキルは使えてもおかしくはない。

 しかし、今の黒い波動は魔法に分類されるのか?

 詠唱もなく、ナコの力をそのままぶつけたような具合だ。


「ナコ、今のは?」

「"暗波くらなみ"と名付けました」

「なんか格好良いっ!」

「技名は付けた方がいいんですよね?」

「リーナはそう言ってたね。言葉にすることでイメージを固定化、ショートカット機能みたいに意識する方がいいって」

「ショートカット機能ですか?」

「ゲーム時は連続で繋いで効果が高まるスキルを、自身でコマンドを組み立てて発動できるようにしてたんだよ。今はコマンドなんて存在しないけど――役立ちそうな必殺技を思い付いたら、技名を付けて頭と身体に染み込ませておく感じかな」


 今となっては一つのスキルでいくらでも創意工夫ができる。

 僕もこれだという必殺技を考えて固定化しておこう。

 同じ形のスキルを幾度となく使用し続ければ――練度が高まるのは必至、さらなるパワーアップに繋がるはずだ。

 時折、ナコはハッピーと会話しているようで、


「ハッピーに聞いたのですが、私は『闇属性』の才能があるようです」


 やはり、闇属性が発現したのは要塞型ゴーレムの時だという。

 闇を飛ばしたり身体にまとわせたり、色々できるそうだが――不透明で曖昧な部分が多く試行錯誤しているとのことだ。


「そこら辺、ハッピーは詳しく教えてくれないの?」

「魔装デバイスの仕様上、ハッピーは私から話しかけない限り――話すということができないそうです。基本的に話した内容に答えてくれるという形になりまして、私の質問の仕方が駄目駄目なのかもしれません」


 と、ナコはハッピーを掲げて、


「ハッピー、闇属性ってなに?」


《 闇属性は8属性の一つとなりマス。光属性に並んで非常に稀有な属性デス 》


「闇属性の攻撃方法ってどうすればいい?」


《 闇は全てのものに安らぎを、主の思うがままに操る力デス 》


「なるほど」

「さすがクーラ、なにかわかったんですね」

「……」

「クーラ?」


 格好つけて頷いてみたものの――全く理解できなかった。

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