第42庫 鍛錬場

 休暇も終盤に近付いたころ、ある一通の手紙がホームに届く。


「わぁ。クーラ、急に目の前に手紙が現れましたよ」

「マジックレター、転移魔法が込められたアイテムだったかな。ゲーム時はホーム同士の連絡用によく使っていたんだ」


 もちろん、実物で見たのは初めてである。

 ナコとリビングでくつろいでいる最中、不意に机の上にひらりと降ってきた。

 ちょっとした面から、ファンタジーの世界なんだなぁとしみじみ感じる。

 手紙の差出人は冒険所、鍛錬場が完成したとの内容が記されていた。


 早速、庭側に回り確認に向かう。

 バリア素材が張られた白い館、内部は天井も高く広々とした空間となっていた。

 スキルの練習用ターゲットプレートも用意されており、色々と捗りそうな造りだ。


 鍛錬場を見終わり出入り口をでると、見覚えのある人物が立っていた。

 スキンヘッドの筋骨隆々なおじさん、相手も僕たちに気付いたのか、


「おぉんっ! 『魚々助ぎょぎょすけ』にいた嬢ちゃんたちじゃねえか、面白い縁だなぁこりゃあっ! 前は恥ずかしいところ見せちまったが、俺の本職はこっちなのよぉーっ! 改めてよろしくな、キローヒだ!」


 魚々助とは、巨大魚とウィールを嗜んだお店のことだ。

 実はその日以降も何度か伺っており、どの料理も美味しくてメニューの端から端まで制覇してたりする。


 ナコはあの日以来、お酒を飲みたいとは一言も言わなくなった。

 酔った翌日、妙に照れくさそうな顔をしていたので、記憶が残るタイプなのかもしれない。


「よろしくお願いします。僕はクーラ、こちらの子が」

「ナコです」

「おう、猫の嬢ちゃん! 今日は酔ってないみたいだなぁー?」

「よ、酔ってませんっ!」


 狼狽えるナコ、キローヒさんは豪快に笑い飛ばしながら、


「もうすでに中は確認してくれたみたいだなっ! ここは俺の生産ギルドが受け持った案件でなぁ、気合い入れて作ったから絶対に気に入ると思うさーっ! 鍛錬場の設備についてはこれこれこうでなぁ」


 キローヒさん曰く、かなりのこだわりを詰め込んだようだ。


「とまあ、こんなとこだなっ。あとで不備が見つかったらしっかり直すから安心してくれよー! それじゃ、この書類にサインだけ頼むっ!」

「ありがとうございます。とても丁寧な造りで気に入りました」


 僕はサインをし、キローヒさんに手渡す。


「そう言ってくれると嬉しいさーっ! 魚々助の近くに俺の店もあるから、またよかったら遊びに来てくれよっ!」


 キローヒさんを見送り、僕とナコは一度ホームへと戻る。

 今日は休暇の最終日、鍛錬場は明日から使用する予定だ。


 無論、王都に行くという目標を忘れたわけではない。

 僕はギルドメンバーと会って、当初の予定通りオフ会をする。


「クーラは皆さんに出会ったあとはどうするんですか?」


 休暇中、ナコに言われた言葉だった。

 今ではそこがゴールではなく、ナコと共にホームを賑やかに、そういった目標も追加されている。


 だが、僕にはもう一つ思い描いている未来図があった。


 それは果てしなく困難な道、オンリー・テイルの根本を覆すことになるだろう。今の僕の力では到底及ばない領域、無謀だと笑われるかもしれない。

 それでもいつか心強い仲間が、ナコのように信頼できる仲間が集結した暁には、


「この世界を変えてみたい」


 あの日、ファーポッシ村で――お墓の前で誓った想いを僕は忘れない。

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