第17庫 ナコの気持ち

「……男、ですか?」

「この世界に来た時、妹のアカウントで作成したキャラクターになっていたんだ。言うのが遅くなっちゃってごめん、中々切り出すタイミングが掴めなくて」


 僕は経緯を説明する。

 本来はメインのキャラクターがいること、妹のキャラクターはアイテムを保管する倉庫として使用させてもらっていたこと。


「現実の性別は男だったんだ。どうしてこうなったか僕もいまだに困惑してる。戻る方法も不明だからこのままいくしかなくってね」

「……っ」


 ナコちゃんが顔を真っ赤に、全身を隠すよう丸くなる。


「パパ以外の男性とお風呂に入るのは初めてです。クーラお姉ちゃんがいやってことじゃなくて、一瞬頭がぐるぐるになっちゃって、緊張が高まってしまったというかなんというか」

「ううん。僕も早く伝えないとって、場所も省みずに気持ちが先走っちゃったよ。すぐに上がるからナコちゃんはゆっくりしてね」

「すぅはぁふすぅ。もう大丈夫です、行かないでください」

「落ち着き方がスマートだねっ?!」

「私、前にも一度言いました。クーラお姉ちゃんに見られても気にしませんって」

「それは、同性と思っていたからだよね」

「違います、性別なんて関係ありません。私はクーラお姉ちゃんという個人だからこそ気にしないんです。見ず知らずの私のために命を賭けてくれたこと――忘れるはず、忘れられるわけありません」


 ナコちゃんは僕の手を両手で包み込みながら、


「クーラお姉ちゃんに助けられた時運命だと思いました。必ず連れて行くと言ってくれた時この人になら一生付いて行ってもいいと感じました」

「なんか、僕がプロポーズしたみたいだね」

「じゃあ、責任取ってくださいね」


 正直、真実を話したら拒否される可能性も考えていた。

 杞憂だった、ナコちゃんは心の底から僕を信頼してくれている。この暖かな気持ちに応えたい――応えよう。

 必ず、王都まで二人でたどり着いてみせる。


「これからは、クーラお兄ちゃんって呼ぶ方がいいでしょうか?」

「あはは。見た目と性別があべこべで周囲の人が困惑しちゃうかもよ」

「クーラさん? クーラくん?」

「普通にクーラって呼び捨てでいいよ」


 仲間同士、ゲーム名で気軽に呼び合うことも多いしね。


「……く、クク、くく」

「急に不気味に笑いだしてどうしたの?!」

「ち、違いますっ! お名前だけで呼ぶのを緊張しちゃったんです!!」


 ナコちゃんがバシャリとお湯を跳ねさせ、頬を膨らませながら抗議する。


「……えっと。く、クーラ」

「改めてよろしく。僕もナコって呼んでいいかな」

「ふぁ、え? 私も、お名前だけで? ふにゃぁああ」

「えっ! ナコ? ナコ?!」


 ナコが鼻血を流しながらぶっ倒れた。

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