第14庫 魔法少女

 ユニーク職の一つ、魔法少女。

 ナコちゃん世代には魅力的なジョブ名、実際は触術師と同じくパーティー向きではないという致命的な欠陥があり、使用する人が極端に少なかったのが現実である。


 しかし、文句など言うまい。


 この状況、戦えるものが一人でもいるというのはありがたい。

 盾でもヒーラーでもアタッカーでもない、今はその不透明な部分に全てを賭けてみよう。


「魔法少女って、どんなスキルが使えるの?」

「すいません。スキルってなんですか?」

「ジョブごとにある専用の技みたいなものかな。ステータス表示って呟いてみて」

「ステータス表示!」



《ネーム》   Naco

《ジョブ》   魔法少女(レベル1)

《種族》    ミミモケ族

《保有スキル》 魔装まそうデバイス(ON OFF)



「……魔装デバイス? 確か、ナコちゃんのアイテムボックスにあったはずだ。取り出してもらってもいいかな?」

「はい!」

「その魔装デバイスをONにしてみよう!」

「魔装デバイス――ON!」


 キラリキラキラ。

 五芒星から淡い光が放たれ、ナコちゃんの全身を包んでいく。

 魔法少女になる過程か、衣服が消え去り一瞬下着姿に――なんでこういう変身シーンだけ妙に力入ってるの。


「なんだかエッチなスキルですね」

「ごめん。見るつもりはなかったんだ」

「クーラお姉ちゃんに見られても気にしませんよ」


 同性だからって意味だよね? 

 僕の中身が男だってこと、ますます説明しづらぁい。

 変身後、若干露出度は高い気はするが、ナコちゃんはいかにも魔法少女といったキュートな衣装――白と黒の入り混じったフリルの格好となっている。



 その愛らしい姿に反して、手には金色に輝く巨大な剣を携えていた。




   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 唸り声が周囲から響き渡る。

 ガルフがそこら中から姿を現し、その数は数十匹とくだらない。一斉に飛びかかるタイミングを見計らっているのだろう。

 僕はナコちゃんと背中合わせに、周囲を警戒しながら作戦を説明する。


「この群れの中に一匹だけボスがいる。そいつを撃破すれば終わりなんだ」

「ボス、ですか?」

「一匹だけ安全圏にいて、他と違う動きをしてるっていうのかな」

「ハッピー、わかる?」

「ハッピー?!」


《 南東二十メートル先、周囲と動きのズレているものがいマス 》


 大剣から機械的な音声が鳴り響く。


「私、魔法少女選択時のチュートリアルを思い出しました。魔法少女には魔装兵器がランダムで与えられること、魔装兵器はAI機能を搭載していて私の力になってくれるということ。その子にハッピーと名付けたんです」


 チュートリアルとは、ジョブ選択時の簡易説明書みたいなものだ。

 僕もこのキャラ作成時は表示されていたのだろうが、いかんせん倉庫に使用するためだけ、適当に流し見していたので記憶には残っていない。


「……見つけました」


 ブォンブォンと空気を斬り裂く音。

 ナコちゃんは重さなどなんのその、大剣を軽々と振り回しながら、


「ハッピー、未来を彩る強さを私にちょうだい」

「えっ、ちょっと、ナコちゃ」


 皆まで言う前に、ナコちゃんが大剣を前方に突進する。

 大砲かと言わんばかりの勢い、あまりの速度に一瞬なにが起きたか理解が追い付かなかった。


「ま、マジか」


 ガルフの群れが四方八方飛び散っていく。

 そのガルフの中心、モーゼの再来とも言うべきか。

 剣の切っ先にボスであろうガルフを突き刺しながら、


「クーラお姉ちゃん、作戦成功です」


 ナコちゃんが全身を真っ赤に染めて戻って来るのだった。

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