第6庫 裏情報
一千万エドルと四千万エドル。
単純計算だが、猫耳持ちは他のミミモケ族一人の約十倍ほど価値があるのだろう。
確かに日本でも猫耳って大人気だったけど、そういった風潮がこの世界にも存在するのかな。
しかし、間に合ってよかった。
と、胸をなでおろしたいところであったがそうは問屋が卸さないようで。奴隷商のおっさんがショーウィンドウの鍵を開きミミモケ族にでるよう促す。
……猫耳の子は――見当たらない。
希少と言うだけあって別室にいるのだろうか? 奴隷商のおっさんは三人のミミモケ族を僕の側に連れて来て、
「それでは、お会計一千万エドルとなります」
「あれ? 五千万じゃ?」
「実はですねえ、猫耳持ちはつい先ほど売り切れてしまったのですよぉ」
「売り切れ?!」
「いやはや、ここまで購入していただいた方に失礼があっては今後の縁に響きますからねえ。ここからは私の独り言なのですが」
奴隷商のおっさんが語り出す。
「名はコールディン、ミミモケ族の収集が趣味な恰幅のいい若手の商人でしてねえ。今回の猫耳持ちは見るなり大興奮でしたよ。それはそれはもう有り金を全て使うかのような勢いでした。んんー、確か『ストーンヴァイス』に戻ると言っていたような」
どうやら、僕の方が上客と考えたのだろう。
なんともいやらしいおっさんではあるが、今はこの商魂に感謝しよう。
僕はその独り言に乗っかる。
「ストーンヴァイスか。どのルートを経由して帰るんだろうなー」
「彼は調味料の売買をしている商人でして、まだ仕事が少し残っているとぼやいていたような。道中素材を収穫するため、山岳地帯を通る可能性が高いでしょうねぇ」
石の都と称されるストーンヴァイス、始まりの三国のうちの一つだ。
アクアニアスから行くとなるといくつかのルートがあるが、山岳地帯はラッキーだったかもしれない。
もし、船からだとしたら奪還は厳しかっただろう。
「助かりました」
「お礼を言われるようなことはしていませんよぉ。ただの独り言、私の手元を離れれば自己責任でございます。自身で管理するのが基本ですからぁ」
「それじゃ、当初の予定通り――五千万エドルです」
「おやおや、これはどういうことですかねえ?」
「また別の人に独り言がでないよう、口堅くよろしくお願いしますね」
「くっふっふ、面白いお方ですなぁ。まさに、わたくしごとお買い上げ誠にありがとうございます。それでは奴隷輪の権利を譲渡するのですが、主従契約には濃い体液が必要でして。お客様の上質な血をいくらかいただきますねえ」
主従契約の紐付けである。
僕は人差し指を噛み、差し出された器に血を何滴か入れる。赤黒い鎖のようなものが器から飛び出し、ミミモケ族の皆に、奴隷輪にまとわりついていった。
契約なんて生優しい言い方で通っているが――ただの『呪い』だ。
とある呪術師が他者を拷問するために開発し、それが歴史と共に今の形に落ち着いたというストーリーがあった。
どちらにせよ、気持ちの良い話ではない。
「はぁい。これで契約は完了ですねぇ」
「奴隷輪だけど、未使用のやつを一つ買うことはできますか?」
「これは奴隷を扱う権利書を持つものしか扱い不可なんですよぉ。と、言いたいところなのですが、お客様のご要望の理由がなんとなく察せますねえ。一つ内緒で差し上げましょう、是非ともまた私の商店をご贔屓にぃい」
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