【ep.6】俺ら三人はちょっと気の利いた喫茶店で駄弁った

 おいおい、俺は奇想天外なことばかり出逢っちまう。そう、インテリ聖人学生クンに紹介してもらった女性の話さ。なあ、兄弟。もしなんか嫉妬とか、そんなことねえよ、なんて毒づきたくなってもどうか聞いてくれ、俺とお前はそんなに違うか? ここまで俺と対話してきたお前だぞ? そう小説は対話だ、これが実際に小説とするかは別として、でも俺とお前は対話している。ビールもウィスキーもなしに俺は晒け出してるんだ。俺はここまで俺と対話してきたお前にもきっと奇跡じみた何かがあると思っている、だから、な、兄弟、どうか聞いてくれ。

 今日気づいたことといえば、女性ってのは男とまるで違うってことだ。俺はインテリ聖人学生クンに「ほんとうに恋愛目的とか考えないでくださいね」と念押されて、しょんぼりとバイトに向かうのとおなじ格好で行ったんだが、おいおい、聞いてくれよ兄弟、その子はめちゃくちゃにお洒落して来やがった! 匂いからして、たぶん香水もつけてる、お袋のつけるやつとは違う、花束みたいな香りさ。俺は花束なんて嗅いだことないけど、でもきっとあれは花束さ。風貌も可愛い、いや風貌なんてどうでもいいさ、俺はともかく、俺のためにお洒落してくれたことが堪らなく嬉しかったんだ。

 俺ら三人はちょっと気の利いた喫茶店で駄弁った、そう三人なんだ、まあそれは仕方ないや、インテリ聖人学生クンも俺が上手く話せるか心配だろうし。けどそれは杞憂だった。俺は俺の想像より、インテリ聖人学生クンの想像より上手く話せたと思う。彼女は、本好きお洒落さんは、たしかに読書家で本の趣味も俺と合ってた。それだから俺らはジェットコースターみたいな会話ができたのさ。そう、ジェットコースター。いい会話ってのはいつでもスリリングで、刺激的で、昇ったり落ちたりするもんなんだ。

 それだけじゃないぜ、俺らはまた会う約束をした。日にちは決まってないが約束ってのは交わした瞬間にそのほとんどの役割を終えてるもんなんだ。「また近いうちに三人で」……まあ三人ってのはアレだが、それでも一度きりってよりは上出来だろう?

 それから俺の読書本は決まった。本好きお洒落さんのために彼女の好きといった本をあらかじめ読んでみることにしたんだ。彼女のお気に入りは『風と共に去りぬ』だった、実際ほかにも何か挙げてたかもしれないがそれは覚えてない。なに、また今度訊けばいいだけさ、ゲームのミッションみたいにひとつずつ攻略していくんだ、そもそもいきなりすべての好きな本を読破するなんてキモイだろうしな、まあ楽しんでいこうぜ、兄弟。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る