詩「斜めからの逃避」

有原野分

斜めからの逃避

煙草を辞めてから一週間。も経つというのに

まだ僕の口からは腐った匂いがすると彼女は

僕の目を見ないで言う「いくら今がいい人だ

からって過去の悪行が消える訳がないじゃな

い」バカなんじゃないの? うん、確かにそ

うかもしれない(とんだ勘違いだ。と思いな

がらも)その言葉を実際にいわせる前に僕は

次の約束を破るタイミングを炬燵の中から

(春。を待つようにうかがっていたように思

う。「じゃあ悪人は未来永劫救われないの?」

――だとしたら人はなぜくだらない選択をし

てしまうのだろうか――))GUで購入してか

ら三年。は経っている毛玉だらけの服を捨て

ようか迷っている先日前髪を550円でカット

した血の繋がっていない娘がミカンの皮をゴ

ミ箱に投げ入れながら「今年のお年玉もお小

遣い一年分くれるの?」いつ? と言ってく

るので僕は歯を出して笑う。「「ちょっと待っ

て、今現金がなくて…」彼女はその後ろで腰

を揉んでいる。腰を――)揉んでいる。――

僕はそれを眺めている。

                (その夜)


雲。が左から右に流れていく景色を眺めなが

ら空は青く広がっていく。月の光は絵筆を洗

ったバケツの水。を吸い上げたのだろうか。

こんなに汚い夜空。を見たのは初めてだった。

ふいにTVをつけて撮っていた地球。ドラマ

チックの再放送を真夜中。の端に投影する。

(猫だ。野生の山猫がウサギを追っている。

その緑と黄緑と茶色と黒と灰色と青と赤と白

と黄色とピンク色がぐちゃっとしてぎゅむっ

とした草原の中にきっと彼女と娘はお腹を空

かせて待っているんだ。それを知るために僕

は夜を待っていたのかもしれない。そんな気

がする。ものすごく。ほら。

ほら。猫がウサギを追っているよ、ほら。

静。けさは破滅。だ。海。に続くモノクロの

細長い一本道だ。光。が槍のように伸びてい

く。いや、影。のように、だ。広がっていく

空。の果て、その草。原。は形のない太もも。

の肉の、赤。い向こう側、シンデレラ。の寝

息のように、犬。の口臭か、100。均で量産さ

れている味。のないガム、割れた手。鏡、CO。

2、高度2万メートル上空。から白。い画用紙

だ。レミケード! 蒸発。する午前。3時。

54分。――誰が死んだのかしら――僕。は改

名を真剣に考え始める「次は「何にするの」?」

キラキラネームにしようかなあと((どうして

も?)交差する指。があるとしたら、きっと

君。の白い肌。にさす僕。の影。だと思うん

だ。缶コーヒーを買いに行く足。に置き去り

にされた月。は猫。の目だ。僕が君を殺すは

ずがない。(ビル)」重なっていく唇。。隙間。

風。。野生を前に、もはや服など時代遅れだ。

罪。人だ。僕。は煙草。を買いに走り出す。

そこで「気がつく。愛。のために失った二本。

の足。のことを。

                 (朝…)


カタツムリのような太陽が夢の中の海をキラ

キラと輝かせ、あなたのヤニ臭い爪から人肌

にぬくもったミルクの味。がした。帰ってこ

ない場所という空間に金を払うぐらいなら、

いっそのこと空間自体を「帰ってこない場所」

という名前で縛りたいと思ったから。「決め

た?」名前のこと? (うん。)いや、まだ決

まらなくて――そうこうしているうちに娘が

起きてきた。私は水を飲んでから歯磨きをし

て匂いを消しにかかる。キッチンから卵を焼

く音が聞こえてくる。――おはようございま

す。(罪人)のような声の向こう側に見える山

を埋め尽くすような分厚い雲が今にも雨。を

降らせそうで、私はまた次のタイミングをう

かがいながら洗濯物を浴室に干す段取りをし

つつなにを待てばいいのだろうか、と煙草。

に火をつけながら考える。

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詩「斜めからの逃避」 有原野分 @yujiarihara

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