私達が押し付けられる理不尽(りふじん)なゲーム

転生新語

第1話 悪い夢の始まり

 今日も世の中は変わらなかった。そう絶望ぜつぼうして職場から家に帰り、眠りにく。それが、いつも通りの日常で、そこから私の夢は日常にちじょうへとつながっていった。


「いいわね。その絶望ぜつぼうったわ」


 暗闇くらやみの中で、少女らしき者の声がした。姿すがたは見えず、暗闇だからか私自身じしんの姿も認識にんしきできない。意識だけが浮遊ふゆうしているような感覚で、夢の中では当然のようにも思えた。


「それはどうも。私の心をのぞいている貴女あなただれ?」


 声を出しているのか、テレパシーのようなもので会話をしているのか判然はんぜんとしない。特に不都合ふつごういので、どうでも良かった。


だれ、と言われると説明にこまるなぁ。天使でも悪魔でも、死神しにがみでも好きに呼んで。そもそも私の立場って、その時に寄って変わるのよ。第一、私には名前がいしね」


「そう。じゃ、とりあえず死神しにがみさん……でいいかな。私のたましいりにでも来たの?」


「ああ、いいわねぇ。その虚無的きょむてき態度たいどじつにいいわ。分かってるわよ、世の中に希望が持てなくて、もう長く生きたいとも思えないんでしょ? 私が求めているのは、そういう人材じんざいなの」


 人材を求めている、と言われた。テロリストの勧誘かんゆうだろうか。私は無言むごんつづきをつ。


「ああ、いいわね。具体的ぐたいてきな質問も思い付かなくて、ただ相手の言葉を待っている、その態度たいど。安心して。これから紹介するのはやみバイトでも、テロの勧誘でも無いから。デスゲーム、って言えば分かるかしら」


 なるほど。言葉の意味は、良く分かった。


「これから私をころいに参加させて、その様子を貴女あなたたかみの見物けんぶつたのしむと。そういう事かしら」


「そう言うと、ちょっと語弊ごへいがあるなぁ。表現がわるかったわね、まあ実態じったい想像そうぞうとおりなんだけど。安心あんしんして。私が貴女にけるのは、そんなにわるい話じゃないから」


 悪い話としか思えないのだけれど、どうせ拒否権きょひけんは無いのだろう。私は話の続きを待った。


「ん、説明を待ってくれて、ありがとう。じゃあ続けるけど、私はイカサマを仕掛しかけたいの。これからおこなわれる、デスゲームというか、いちだい興行イベントにね。私は主催者しゅさいしゃがわなんだけど、人間界でもあるでしょ? オリンピックでも、サッカーのワールドカップでも、談合だんごうとか八百長やおちょうがさ。人間界の事はくわしくないけど、私が仕掛けたいのは、そういう事なのよ」


「私だって談合や八百長にはくわしくないわ……」


「とにかくね、今回のイベントは、優勝者のねがいを何でもかなえる事ができるの。でも人間って大体だいたい、私から見たら、つまらないねがいしか持ってないのよね。いいのよ、別に? まわりの幸せをもとめたり、世界一のお金持ちになったりしても。でも、それって、世界せかい全体ぜんたいからしたらたいした事じゃないわ。貴女ならかるでしょう? 私が言ってる意味が」


 死神さん?の言葉に対して、私は何もこたえなかった。意味が分からなかったから、ではない。


「……いいわねぇ。貴女の中にある、その渇望かつぼう。求めている事自体じたいささやかなねがいなのに、貴女をかこむ世界は、それをけっしてみとめようとしない。絶望ぜつぼうしちゃうわよねぇ、にたくなるわよねぇ。もし貴女が女性じゃなくて、血気けっきさかんな男性だったらテロをこしちゃうくらいのいかりがむねの中にあるのよね? いいのよ、かくさなくて。そんな貴女だからこそ、私は声をけたんだから」


「貴女は何者なにもの? 死神? 悪魔?」


なんでもいいじゃない。あえて言えば、私は世界を変えるがわものよ。人間は認識にんしきできないけど、世界って何度も、私達が主催しゅさいしているたびに変化しているの。イベントの優勝者が、ねがいをかなえる事にってね。ただ、さっきも言った通り、とくに最近は人間のねがごとってスケールが小さくてね。面白味おもしろみいのよ。神様でも悪魔でも死神でもいいけど、とにかく私達はたのしませてほしいの」


まわりくどいがためて。私をデスゲームに参加させて、そして優勝させてくれる。そういう事よね? 貴女がけようとしてるイカサマっていうのは」


たすかるわぁ、話がはやくって。ええ、そのとおり。誤解ごかいしてる人も居るけど、イベントにフェアプレーなんか、主催者しゅさいしゃがわは求めてないのよ。すべては利権りけんやら何やら、そういったものがからんでるの。人間界の選挙せんきょだって、そういうものなんでしょう?」


「選挙なんか、どうでもいいわ。どうせ、それで私のねがいはかなわないんだから。さっさと私が何をすればいいのか、くわしい事をおしえて」


「まあまあ。ゆっくりはなしましょうよ。先に説明すると終了しゅうりょうして、優勝者が大きなねがいをかなえたら、世界は新しく再構さいこうせいされるのよ。そうなったらイベントで脱落だつらくしてくなっちゃった人達のも、リセットされてかった事になるわ。パラレルワールドみたいなあつかいね。だから罪悪感ざいあくかんなんかつ必要は無いわ。気にせずにっちゃって、っちゃって」


 どうやらイベントというのは、夢の中でおこなわれるようだ。それはなんとなくかって、これからなにが起こっても、夢の中だからむ必要は無いのだと私はこころめた。

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