有翼の娘は2度めの人生を暢気に過ごしたい

第1話



「おまえなど、我が一族のではない!!!


出来損ないめ!2度とここに足を踏み入れるでない!!!!」


ギロリと睨み口汚く罵るのは父親であるはずの男だ。


威圧的に仁王立ちし、己の子供を断罪する。


「承知いたしました」


それに対する子供は静かに、しかし確かに承服して父親に背を向けた。


集落を出るまでに向けられる侮蔑、嘲笑、軽蔑、怒気、ありとあらゆる負の感情の籠る視線だが、それを浴びせられても、子供の心が、大きく揺れることはない。


自分には無理なものは無理なのだから。













夥しい血が横腹から流れ続け、抑えている男、クラウスの手を濡らす。


身体からは熱が抜けていき、視界はボヤけている上、血の匂いに寄せられたのか魔獣の気配がジリジリと近づいて来るのが分かる。


「あ゛ーくそ・・・大した人生の、 幕引きだよ」


最後まで残っているのは聴覚ってのは確かだったらしい。


羽音と鼻息の音に終わりを感じ、意識が途絶えた。


Bランク冒険者の最期にはある意味相応だとも思いながら。





-グルルル-


「あらー?こんなところに人がいるなんて珍しいわねえ」


大型の獣の唸り声と反して、のんびりとした落ち着いた女の声が深い森に響く。


先程まで血の匂いに寄せられてきていた獣は名残惜しそうにしながらも、大型の獣の気配を恐れ退散した。


森に響くのは大型の獣と女の足音だけとなる。


-グルッ?-


「そーねえ。まだ生きてるし、お持ち帰りしようかな。


とりあえず血止めをしないとね。血止め終わったら背中に乗せて運んでくれる?


あ、それだと安定させるの難しいか。


咥えてくれる?」


-クルル-


「それじゃあやろーかな」


死にかけた男を前にしたとは思えない落ち着いた声が響いた少し後、その場には血溜まりだけが残っていた。





ルーフェリア王国とベルリアル王国に跨る急峻な山脈は、標高は高い山で4000メートルになり、豊富な水源、食用の実をつける木も多く比例して強力な魔獣も多く生息している。


その山脈は他国への移動経路、貴重な薬草、鉱石、魔力のある魔鉱石の採取、魔獣の討伐等で冒険者や商人が数多く行き交う。


危険はあるが、それを押してあまりある魅力があるのだ。冒険者に対しての依頼の報酬も危険に比例して非常に高い。




クラウスはそんな山脈に生息するCランクの魔獣、レッドウルフの討伐依頼を受けたBランクのソロ冒険者であった。


レッドウルフは集団で狩りを行う性質上、依頼は基本的に複数の冒険者が集団で行う事になる。

ソロのクラウスと共に、同じくソロでBランクのテイマーであるマリウス、5人組Cランクパーティ《明けの明星》で組み、依頼を受けたのは負傷する2日前の事だ。


調査と斥候でマリウスがティムした魔物と先行し、連絡を受けた後、クラウス達が山に入ったのだが、山の足場の悪さに加えてレッドウルフの3つの群れとの遭遇と不運が重なった。


各群れを分断し各個撃破をしていた所、功績と賞金に目が眩んだ《明けの明星》に不意を突かれて攻撃され、崖下に落下する事態に陥った。


これが女・・・スズにお持ち帰りされるまでの事の顛末である。



女の名はスズ・・・正確にはこの名は前世日本人だった頃の名前なのだが・・・


前述の通り転生前の記憶を持ち、また、冒頭で一族から放逐された15歳になる娘である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る