思わぬ出会い

「雫月、飲んでるか?」


楽しそうに話しかけてくるこの男は、この世界の友人の翔だ。


あれから私は、あの言葉通り無事生まれ変わることが出来て、現代日本で生活をしている。


最初はすごく混乱した。


愛しいあの人は隣にいなくて、何をすればいいのかわからなかった。

ただこの世界は優しい人ばかりで、右も左もわからないこんな私にも、親切にしてくれた人が沢山いた。

幸いなことに、この世界は技術が発達していて、悠々自適に生活できている。

今は理由あって、バーという所で男二人で飲んでいるのだが、初めて訪れる場所なので直ぐ場酔いをしてしまいそうだ。


「それでさ、その人何て言ったと思う?」


「?」


「やっぱり聞いてなかったのか。」


「ごめん。」


グイッと強く肩を抱き寄せられる。

こいつ、相変わらず距離が近すぎないか?

それとも現代人はこれが普通なのだろうか。

一人で困惑していると、扉が開く音がした。


「なあ雫月、見ろよ。すげーイケメン!特に真ん中!」


「え?」


特に気にも留めてなかったが、翔が指さした彼らを見てみると、不意に真ん中の男と目が合った。


ドクンドクン、と心臓の鼓動が速まる。


うそ、主なのですか…?


「雫月?」


自分を呼ぶ声も耳に入らない程、私は彼に吸い込まれた。

茶色の色艶のある癖っ毛に、柔らかく艶麗な瞳、目元には一つの黒子。

私の目の前には、あの日と何も変わらない主が佇んでいた。


「主…っ」


声をなんとか振り絞って、我が主に声を掛ける。

けれど、怪訝そうな顔をして貴方はあの日の様に何も言わず、席に着いた。


人違いなのだろうか?

でも、見間違えるわけが無い。


あの手で頭を撫でてもらい、あの背中に守ってもらった。


でも本当に人違いだったら。

感情が高ぶって、身体が熱くなるのが分かる。

私は乾いている喉を潤したくて、手に持っているカクテルという飲み物を一気に流し込んだ。


…ふわふわする。


何と表現すれば分からないが、宙に浮かぶ感じがする。

まるで生まれ変わる前のような感覚だ。


「おい、雫月?」


意識が薄くなってきて、思わず翔に身体を預けてしまった。

こんな醜態を曝け出すなんて、私らしくない。


「…俺以外の誰にも見せるなよ。」


翔が最後に何を言っているのか聞き取れないまま、私は暗い深淵へと迷い込んでいった。

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生まれ変わってもう1度 有栖 @arisssu2525

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