第11章27話 終焉のマギノマキア -7-
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
かつてアストラエアの世界で千夏と雪彦が語らったことがある。
この『ゲーム』における『負け』とは体力が先に尽きることであると。
だから『負けない』方法の一つとして、『誰にも触れられないスピード』があり
では、逆に『勝ち』とは何かと言えば『負け』の反対――先に相手の体力をゼロにすることである。これは真実だ。
後はいかにして先に体力をゼロにするかという手段の問題だ。
そして、手段は豊富に存在し、かつ明確である。
……シャルロットのような明確な攻撃手段をもたないユニット以外にとっては、非常に簡潔な手段だと言えよう。
それがあっても
その領域に達しているのが、今の最終決戦のレベルなのである。
――……ったく、あんたたち……『殺意』高すぎでしょーが……!!
回避以外に対処法のない――下手に防御しようものなら防御壁を伝って襲い掛かってくる《
その《マーキュリー》を回避するだけでなく、フランシーヌの方へと差し向けるケイオス・ロア。
どちらも『殺意』に満ち溢れた攻撃・行動をとっていると言えよう。
――……あたしじゃ、
実力が劣っているとは決して思わない。
むしろ、『一撃必殺』の殺意に溢れた魔法を使えるという点で、フランシーヌは攻撃面では大きく有利なはずだった。
なのに今一番追い詰められているのはフランシーヌだった。
その理由を彼女自身が一番よく理解できていた。
アリスとケイオス・ロアも最後の戦いに『勝つ』という意気込みはある。当然、フランシーヌにもだ。
けれども、二人はフランシーヌとは全く違う点がある。
フランシーヌが思う通りの『殺意』――そのレベルが段違いなのだ。
戦いに勝つための意気込みや心意気には何種類かあるだろう。
二人についてはそれを『殺意』に全て振っているのである。
決着を望みつつも押し込め、ただひたすらに対戦相手を屠ることだけに全集中する。
『怒り』や『憎しみ』といった感情が一切混じっていない、純粋な、目的達成のためだけの『殺意』。
……それはこの戦いにおいていかに迅速に相手を倒すかという状況に、この上もなく沿った、そして必要なものだった。
フランシーヌにはそれがない。
正確には欠けているわけではないのだが、他の二人に比べて『勝つ気』はあったもののどちらかと言うと『使命感』の方が勝っていた。
そして、押し込めてはいたものの後ろめたさもあった。
……アリスたちがフランシーヌの参戦に対して思うところは何もないのだが、それはフランシーヌからはわからない。
これらの感情が、フランシーヌの足を遅らせる枷となっていた。
その結果が『今』である。
「ぐっ……ブラッディアーツ……《ブラッドバイト》……ッ!!」
それでもフランシーヌはまだ勝負を捨てていない。
魔獣の顎と化した霊装へと
小粒の《マーキュリー》をも呑み込み、削られても新たな血で顎を再生させながら――この場で最も厄介で凶悪な魔
「――ext《
アリスの放った円錐状の巨星が、真正面から魔獣を打ち破り――
「…………畜生……悔しいわね、やっぱ……」
そのまま一直線にフランシーヌへと飛来し、胴体中央部へと突き刺さったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《ネプチューン》は他の巨星とは異なる、
前方へと射出されるのは他の巨星魔法と同様だが、異なる点は円錐状の巨星が高速で回転しているというところだ。
要するに、『巨大なドリル』を放つ魔法と言える。
本来の用途としては、相手の攻撃魔法へとカウンターとして放ち、ドリルで掘り抉るというものではあるが、当然単発の魔法として放っても効果はある。
今、《ネプチューン》はフランシーヌの放った魔法を穿ち、フランシーヌ本人へと突き刺さった。
――今度こそ、フランシーヌは倒したか……? いや、油断はできないか。
油断も、敵を倒したという高揚感もなく、ただひたすらに冷静にアリスは状況を分析し続け『次』の手を考える。
ただの巨星ではなく、突き刺さった個所から抉っていく《ネプチューン》の殺傷力は高い。
正に『殺意の高い』魔法だ。
それが命中した以上、回復能力がない限りフランシーヌは脱落はほぼ確定したと言える。アリス自身もそう思っている――仮に《ネプチューン》で倒せなかったとしても、まだ発動している《マーキュリー》の追い打ちで倒せるはずだ。
……もちろん、それで倒れない可能性もまだある、と油断はしていない。
が、もはや脅威はない、とも思える。
――チッ、ロアはまだ無事……しかも、オレの魔法を全弾回避してやがるか……!
むしろアリスにとって最大の脅威であろうケイオス・ロアは無傷でこの場を乗り切ってしまっている。
『時間』を封じることができた反面、『空間』の方は封じることが出来ていない。
ほぼ絶対防御とも言える歪曲空間による防御だけは、星魔法では突破することは不可能――それは承知の上での戦術だ。後悔はない。
防御している間は向こうからの攻撃も来ない、これもケイオス・ロアが予想した通りアリスもわかっている。
問題は、その状態では決着がつかないということ――魔力切れを狙うにしても、アリスの方がやや分が悪い。
そして、一転してケイオス・ロアに攻撃に転じられたら勢いで押し切られる可能性が高まる……つまり勝ち目が薄いということだ。
――……ま、全部承知の上だ。やってやるさ。
逆に考えれば、ケイオス・ロアが攻撃に転じればアリスの攻撃も通じるようになる。
勝ちの目はその時にアリスが押し切ることだけなのだ。
ここからが『本番』。
一手遅れれば自分が倒されることになる、決死の戦いとなる。そうアリスは感じていた。
その決死の戦いにおいて、真っ先にフランシーヌを落とせたのは大きい。
特に乱戦になった際にフランシーヌのブラッディアーツは脅威となる。
目に見えて反撃や回避のしやすいアリスとケイオス・ロアの攻撃魔法と違って、忍び寄る血液が突如牙をむく、その上更に一撃必殺となりうる魔法は脅威以外の何物でもないだろう。
それを防ぐことが出来るのは、戦いがやりやすくなったことを意味する。
……正々堂々、真正面から何のわだかまりもなく戦って決着をつけたかった思いはやはり拭えないが、それでも『勝利』以上に優先すべきものはない。
アリスはすぐさま意識を『今後』の戦いへと向けて切り替える――すなわち、ケイオス・ロアとゼラを共に屠るための殲滅戦へ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――悪く思わないでよね、フラン……!
自分に向かって来た《マーキュリー》をフランシーヌの方へと全て飛ばしたケイオス・ロアだが、内心はそこまで割り切れているわけではない。
卑怯な戦術とは全く思わないが、釈然としないのも事実だ。
彼女もまた、アリスと同様に最後の戦い――特に真正面から戦ってアリスとフランシーヌとは決着をつけたかったと内心では思っていた。
それはもう叶わない。
とにかく『ゲームの勝者』になる。それこそが最優先だというのには、彼女も変わりはない。
だから割り切る以外に方法はないのもわかっている。
――ともかく、ここからね……!
そして、ケイオス・ロアもまたアリスと同様の考えに至っている。
歪曲空間での防御を続けていればアリスの攻撃は全て防ぐことができるだろう――《
あくまでも決着は星魔法。そのための《マーキュリー》等の新魔法なのだ、と見抜いているためだ。もちろんいざという場合もありうるので警戒は怠らないが……。
魔力の削り合いになっても勝つ自信はあるが、確実に勝てるかはわからない。
特に、フェイントを混ぜての時間稼ぎをされたらケイオス・ロアは負ける。アリスと違って自動的に魔力が消費し続けるためだ。
やるべきことは、時間稼ぎを許さぬ徹底的な攻撃。
あらゆる魔法を使い放題になるという圧倒的アドバンテージを活かした、力押しによる殲滅戦だ。
また、アリスの考えと同様に、フランシーヌの危険性も正しく理解している。
むしろガイア内部で長く行動を共にしていたのだ。アリスよりも正確なところまで理解していると言えるだろう。
思うところはあれど、時間操作を封じられ回復能力を失った今のケイオス・ロアにとって、フランシーヌの『一撃必殺』は何よりも警戒すべきものだ。その危険がなくなったことは『勝利』にとって重要なことだ。
「ロード《ゾディアック・フォーム》!!」
歪曲空間で身を守りつつ、ケイオス・ロアは『次』の――そしておそらく最後の激突となるであろう戦いに備え、自らの能力を解放する。
彼女の魔法――ロードは、元のホーリー・ベルの時とは違い基本的には服型霊装へと効果がかかる。
両手足の鎖を変化させ、他の魔法の補助を行うことを主とする魔法となっている。
その形は、かつてラビが思った通りの『星座』をモチーフとしたものだ。
太陽の軌跡に配置された黄道十二宮星座を模した、ケイオス・ロアにとっての攻撃面での切り札の一つ。それが《ゾディアック・フォーム》である。
鎖が形作るのは星座……を無視した
ケイオス・ロア自身の放つ魔法を増幅、十二倍にして一斉発射する《カムライ》の無限の魔力なくして使うことのできない、最強の砲撃魔法だ。
――アリスにはこれ以上
――フラン……はまだ生き残っているかは微妙だけど、仮に生きてても関係ない!
――全員纏めて、一撃で吹き飛ばす!!
最初からそうすれば良かった、とは思わない。
予想外のアリスの魔
そう、この最強砲撃魔法はケイオス・ロアにとっても『賭け』なのである。
これが通用しなかったら
ダメージを与えることが出来るのであれば連発することで勝てるかもしれないが、『ダメージを与えつつ動けない、または反撃できない状態になる』でなければならない。
「…………ロード 《七死星剣:文曲》!」
ほんの一瞬、迷った末に武器型霊装を文曲――以前でいう『
威力上昇の
《ゾディアック・フォーム》の十二倍の増幅だけで威力としては十分。仮にこれで倒せなければ巨門を使ったとしても倒しきることは難しいと判断せざるをえない。
ならば、逃げられないくらいに範囲を拡大させて確実に命中させる方が良い。そういう判断だ。
「オペレーション《ワームホール:ゲート》!」
同時に自分自身をワームホールで移動させる。
場所は対戦フィールド上空――眼下にアリスたち全員を収め、かつ相手側からの反撃をしづらい距離だ。
一方的に攻撃できる位置から、回避しようのない極大魔法を十二倍に増幅して放ち一網打尽にする。
……これでダメだと途端にケイオス・ロアの方が厳しくなる。それをリカバリーするために反撃される前に連打で押し切ることが可能な位置、つまりは『一番勝率が高くなる』位置だ。
――これで決める!
アリスがケイオス・ロアが上空へと移動したことに気付いた。
《マーキュリー》と《ネプチューン》を食らい崩れ落ちたフランシーヌは動かない――姿が消えていないということは体力は残っているのだろうが、もはや虫の息。
ゼラの姿は……見えない。が、直前に《
今、目に見えていることが『全て』であり、『全て』がケイオス・ロアにとってのチャンスであることを示していた。
これで決める、否これで決めなければならない。
「……」
一度、大きく息を吸い込む。
魔法の発声のため、だけではない。
ここから先、何が起ころうとも――
文字通り『一息つく』ことが出来るのは、きっと決着がついた後になる。
そんな予感があった。
「オペレーション――《ヴァーミリオンサンズ》!!!」
眼下に向け、ケイオス・ロアが持つ魔法の中では最大威力であり、かつ最大範囲でもある炎属性の極致――燃え盛る疑似太陽を射出する、ある意味でアリスの星魔法にも似た炎の巨星。
それが
対戦フィールド全てを覆うには至らずとも、眼下のアリスたちが瞬間移動でもしない限り逃げることの出来ない超広範囲へと、炎の塊……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……なんてこった」
ケイオス・ロアが空間魔法を使って自身を上空へと瞬間移動させたことにすぐに気付いたアリスは、フランシーヌとゼラにはまだ注意を払わずにはいられないものの、ケイオス・ロアの方へと視線を向けていた。
前述の通り、歪曲空間によって身を守りつつ攻撃をすることは出来ない。
故に、ケイオス・ロアが動くその時こそが攻撃のチャンスであると同時に、ケイオス・ロアから攻撃を仕掛けてくる『死地』でもある。
死地を見極め、上手く対処することが出来なければ一撃で終わる。
事前のシミュレーションでもそう結論付けていたアリスは、状況次第ではあるがケイオス・ロアが決め技を放つタイミングと『何の魔法』を使ってくるかは幾つか想定はしていた。
《ゾディアック・フォーム》による増幅は完全に想定の範囲外であった……。
「
しかし、アリスに対処できないものではない。
むしろ規模と範囲こそ想定を上回ったものの、
……ジュウベェやナイア、それに様々なモンスターと、完全に『ゲーム』の枠を超えているとしか思えない異常な敵と戦い続けて来たことが、良い意味でも悪い意味でもアリスの感覚をマヒさせてしまっている。
《ヴァーミリオンサンズ》を増幅して放つのは規格外の魔法ではあるが、十分対処可能な――アリスにとっての常識の範囲内の魔法である。
「――だが、容赦はしねぇ。
ロア、貴様を倒し、オレが勝つ!!」
墜ちてくる空を見上げ、恐れることなくアリスは両手を天に掲げる。
掲げたその先には、炎の向こう側にケイオス・ロアがいるはずだった。
「ext《
アリスの手から、暗黒の巨星が放たれる。
……それは、見た目はただの《
いかに超硬度の物理攻撃特化の魔法といえど、《ヴァーミリオンサンズ》の炎を突き破ってケイオス・ロアへと届くとは思えない――それ以前に、仮に突破できたとしても広範囲に降り注ぐ炎がアリスを焼き尽くしてしまうだろう。
ケイオス・ロアもアリスが《サターン》を発射したのには気付いている。
油断なく、次の――《ヴァーミリオンサンズ》一発で勝負がつかなかった場合の手を準備しているのだが……。
墜ちてゆく炎の空と、地上から打ち上げられた黒い巨星が中空で接触。
すると次の瞬間――
「……はぁっ!?」
まるで《サターン》に触れるのを嫌がるかのように、炎の空が裂けていっているのだ。
結果、《ヴァーミリオンサンズ》は《サターン》で身を守っているアリスには全く当たらない軌道で地上へと墜ちてゆく。
《サターン》は、
ケイオス・ロアの得意とする『属性魔法』の軌道を捻じ曲げ、当たらないようにする――それだけを目的とした魔法なのである。
見た目こそただの《ブラックホール》のようではあるが、その実態は大きく異なる。
《
回転と《ジュピター》同様の重力、そして内部で絶えず発生している電磁力――細かい理屈はアリス自身も理解しておらず楓たちに教わった通りに創っただけだが――様々な力を同時に発動させることで、《サターン》の周りには強力な『力場』が発生している。
その『力場』はある意味で空間を支配し、己に近づくあらゆるものを『弾く』性質を持っている。
実体のない『属性魔法』であれば、どのような規模であろうと――たとえ空間の断裂だろうと弾くことが可能なのだ。
ケイオス・ロアが大技を放つのに合わせ《サターン》で防御。
防御できるはずのない規模の攻撃を防がれたその時、必ずケイオス・ロアに隙ができる。
それを狙うが故の、ケイオス・ロア特効なのだ。
「ab《
「!!」
《ヴァーミリオンサンズ》を突き破ったと思った瞬間、アリスが《サターン》を無数の《マーキュリー》へ変換――アリスの魔法の神髄、持続力を活かした
無数の《マーキュリー》を作り出したということは、次の行動は――とケイオス・ロアが判断するのとほぼ同時。
「awk《
生成した《マーキュリー》全てをケイオス・ロアへと向けて発射する!
しかも前回とは違い、比較的近い距離、加えて大技を放った直後だ。
無傷で回避しきることは困難。
下手をすればこれ一撃で勝負が決まる――そんな、ベストのタイミングでの一撃だった。
――これで決まれば、アリスの勝ちが決まる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「くっ……そぉぉぉっ!!」
ケイオス・ロアは自分が『失敗』したことを嫌でも自覚していた。
まさか、《ヴァーミリオンサンズ》を真正面から捻じ曲げることで防ぐとは思いもしなかったのだ。
だからケイオス・ロアは『追撃』のことだけを考え、相手の反撃への対処を考えていなかった。
結果、迫る《マーキュリー》――しかも今度は全弾をケイオス・ロアへと集中させたものに対し、決死の選択を迫られることとなってしまった。
――防御魔法……いや、それじゃ確実に『詰む』……!!
再び歪曲空間に閉じこもることで回避は可能。
しかしそれではこちらから攻撃することもできず、ただ徒に《カムライ》によって魔力を消費するだけになってしまう。
……そうなれば魔力の削り合いになった時にアリスに負けることとなるだろう。つまり『詰み』――敗北が確定する。
それを避けるには、ここで覚悟を決めて『攻め』なければならない。
――くっ、
『時間』『空間』属性は読まれるであろうことはわかりきっていた。
魔力消費なしで魔法を連発できる《カムライ》の存在は、読まれているかもしれないとは思っていたが……まさか対抗策を出せるとは思ってもいなかった。これはケイオス・ロアの『慢心』と言えるだろう。
攻撃をさせないことで無駄に魔力を消費させ、消耗戦で優位に立つ。
一度優位にたってしまえば、《カムライ》の性質上魔力の値を逆転することは不可能となる。
それをアリスがどこまで理解して狙っているのかはわからないが……現実として状況はケイオス・ロアの恐れる方向へと進み続けている。
「――なら、お望み通り攻めるまでッ!!」
が、恐れるだけで動けなくなるケイオス・ロアではない。
一瞬の間に考えをまとめなおし、覚悟を決めて自ら前――いや『下』へと向けて突進。
《マーキュリー》を凌ぎつつアリスへと次の攻撃を叩き込もうとする。
《マーキュリー》の性質は先ほどのフランシーヌのおかげで大体わかっている。
「オペレーション《ウェイバー・スキン》!」
自身の周囲に薄い『膜』状の防御空間を展開。
歪曲空間のような完全防御はできないが、代わりに自分自身も自由に動くことができる防御魔法だ。
効果は、奇しくも《サターン》と似たようなもので、向かってくる攻撃を『逸らす』ための力場を発生させるというものである。
ただし《サターン》ほどの規模ではなく、力場としてはかなり弱い。例えば巨星魔法を撃ち込まれたとしたら逸らすことはできないだろう。
だが《マーキュリー》のような小型矮星、しかも勢いのまま飛翔するタイプの攻撃であれば十分だ。
基本的には自力で回避、どうしようもない――わずかにでも自分の身体に触れてしまうものについては力場で逸らして凌ぎつつアリスへと迫り、攻撃魔法を叩き込む。それがケイオス・ロアの勝ち筋だ。
――今度こそ、こっちから攻撃を当ててやる!
アリスの魔法は恐ろしいが、かといって無制限に連発できるものでもない。
《マーキュリー》をばら撒いた時点で、すぐに次の行動に移ることができないというのは他のユニットと同様である。
ここで安全策をとらずに『賭け』に出たことが効いた。
《マーキュリー》を放った直後のアリスへと、ケイオス・ロアが先手をとれるタイミングが訪れたのだ。
「………!?
その時、上からの視点だったケイオス・ロアだけが気付いた。
《ヴァーミリオンサンズ》の炎に巻き込まれなかったアリスの周囲に、異様なモノが現れていることに。
……赤黒い、小さなナメクジ――あるいはヒルだろうか。
どちらであっても本来は存在しないであろう、鋭い牙を備えた体格に見合わぬ大きな口を開きながら地面を這い、アリスへと迫ろうとしている。
今までどこにもいなかったはずの、モンスターじみた存在が確かにいる。
「! アリス、危ない!!」
声を出して警告したのはケイオス・ロアではない。
離れた場所から今までずっと黙って見ていたラヴィニアだった。
口出し無用、とは言わない。
突如姿を見せた異形の存在に、思わず声を出してしまったのだろう。
――それが、たとえアリスの集中を乱してしまうものだったとしても、責めることはできない。
「!? チィッ……!?」
アリスが気付いた時には、既に足元にヒルが辿り着いていた。
同時に、上からはケイオス・ロアが。
アリスも直前までケイオス・ロアしか見ていなかった。
「……ロード《七死星剣:破軍》!!」
《マーキュリー》を全弾回避しきり、アリスへと迫れたケイオス・ロアは迷わず自分の霊装を『剣』型へと換え、魔法を使う間すら惜しいとばかりにそのまま上から切りかかる。
少し卑怯かもしれないが、謎のヒルがその瞬間にアリスの脚へと食いつき僅かに体勢がぶれる。
その隙を逃さず、ケイオス・ロアが一太刀――致命の一撃を振り下ろそうとした時だった。
「……っ!? がはっ……」
完璧なタイミングでアリスを斬り伏せようとしていたケイオス・ロアが、真横へと吹き飛ばされた。
しかもただ吹き飛ばされただけではない。
ケイオス・ロアの左脇腹が大きく斬り裂かれている。
「く、そっ……!?」
そして同時に、アリスへも攻撃が仕掛けられていた。
足をヒルに食いちぎられそうになり体勢を崩した瞬間、地面から伸びて来た『槍』が左胸を貫こうとしたのだ。
……ギリギリ回避することはできたが、左肩を深く抉られアリスも膝をつく。
――無数のヒルたちのいる場所で……。
「――
アリスとケイオス・ロア、二人が大技を放ちかつ互いを攻撃することに集中している瞬間を狙い、攻撃した来たのは他に存在するわけがない。
一度は脱落したと思われたフランシーヌたちが、ここで再び戦況を動かしたのだ……!
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