第10章6話 三界制覇戦 3. 『天』
* * * * *
……危ないところだった……。
間一髪、『離脱』を使って逃れることはできたけど、あと少し遅かったら私も影に吞み込まれてゲームオーバーになっていたかもしれない……。
「……あ、あれ……どうすればいいんだろう……?」
「ああ……正直、力業で突破は難しいぜ、あれ」
地上にいた
”ごめんね、二人とも……”
だから真っ先に影に吞み込まれてリスポーン待ちになってしまったのが、地上の二人だったのだ。
「いやぁ……あれは予想できないっすよ……」
「う、うん。怖かったけど、僕も大丈夫」
二人ともそうは言うけど、ショックなのには違いないだろう。
「んー……」
ありすも渋い顔をして唸っているが、いいアイデアは出てこないみたいだ。
「あのタイプのクエストは初めてかな?」
「あたしも覚えはないにゃー」
”そうだね……”
討伐目標を倒したというのに、帰り道こそが本番というパターンは確かに初めてだ。
ドラゴンハンターだと似たようなクエストはあったけどね。ただ、モンスターを倒して戻る……ではなく、指定アイテムを採取した後にモンスターの妨害を潜り抜けて戻る、という感じだけど。あれもあれで面倒くさいクエストだった覚えがある。
難易度としては、『三界の覇王』に相応しいものであると言えるだろう。
「アンリマユ自体は本当に弱かったですわね……」
「その後に出てきた『影』も一匹ずつは大したことはないようでしたが――」
”問題は『数』だね……”
たとえばアリスの巨星魔法一発で薙ぎ払うことができてしまう程度の強さなのには違いないけど、それを補うように延々と湧き続けるのだ。
しかもそのスピードがとても速い。あの速さだと、たとえ《
「ん、後はゲートの位置がわからない……」
”だねぇ……”
さっきの戦いでは突然の襲来に驚いてしまってロクに探すことはできなかったが、どちらにしてもすぐに見つかるような位置にはなかったと思う。
ゲートを探す必要もあるのはそうなんだけど……これ、目視で探すしか手段がない。
「探し物でしたら、シャルロット様の魔法が有効ですが……」
「んー、和芽がこっちに来れないから仕方ない……」
あまり必要にならなかったから気付かなかったけど、私たちのチーム……『探し物』は苦手なんだよね。
ジュリエッタの魔法で『索敵』についてはできるんだけど、どこにあるかわからないゲートを探すような能力ではない。
レーダーさんが頼りにならないのは今に始まったことではないから敢えて責めないけど。
「アンリマユを倒す前にゲートを探す、という手もあるけど――」
「ちょっと微妙かもにゃー」
楓たちも考えているが、良い答えは思い浮かばないようだ。
確かにどこかにあるゲートを先に見つけてからアンリマユを倒す、ということができれば話は簡単だろう。
でも、そう簡単にはいかないと思う……。
”だねぇ。まず、アンリマユを倒さないとゲートが出てこないかもしれない”
問題その1はこれだ。というか、おそらくそういう仕掛けになっているんじゃないかなと思っている。
「あとは……放っておいたらアンリマユが強くなっちゃうとか、あの『影』が出てきちゃうとか……だよね……」
問題その2は雪彦君の言う通り。
仮にゲートが最初からどこかにあるのだとして、それを探す時間をアンリマユが与えてくれるかどうかは――まぁ難易度を考えたらきっとないだろう。
どちらにしろ、私たちは『アンリマユを倒す』『ゲートを速く見つけて逃げ込む』をやらなければならないのに変わりはない。
”…………さて、対策はまた後で考えるとして――最後の『天』に行く?”
「……ちょっとリフレッシュしたいっす」
”オッケー。じゃあ、また現実に戻って小休止しようか……”
皆して暗い気分になりそうだったので、空気を入れ替えるのも兼ねて再び休憩することにした。
……オオカミに引き続き、アンリマユもまたとんでもない相手だった――正確にはアンリマユ自体よりもその後の方が大変な変則的な強敵だけど――のだ。
果たして残るインティはどんな相手なのか……空気を入れ替えたいとは思うけど、どうしても暗いことを考えてしまう私なのであった……。
* * * * *
さて、今度は『天』のインティへの挑戦となる。
……欲を言えば、『三界の覇王』のうちの一角は今日中に崩しておきたい。
果たしてインティがどんな相手なのか……前例を考えれば到底油断できない相手なのには違いない。
「……いないな……」
”うん……レーダーも反応なし……?”
インティとの戦いの舞台は――とてものどかな景色だった。
そよそよと気持ちのいい風の吹く草原だろうか。遥か遠くに山が見えるし四方が囲まれているみたいだから、『盆地』なのかもしれない。
空はこれまた気持ちいいくらいの青空で、モンスターと戦う殺伐としたクエスト内とは到底思えないくらいである。
雰囲気としては、10年後のエル・アストラエア近郊の平原が一番近いかな? あるいは、お馴染みの草原ステージか。
油断せず、アンリマユの時と同じ配置で私たちは草原を進んでインティを探し出そうとしていた。
……が、いくら探してもインティどころか他のモンスターの姿も見当たらない。
”むぅ……? 全然いない……”
「だな。
……それにしても
カンカン照りの平原を飛んでいるせいか、アリスも暑そうだ。
……ヴィヴィアンも表情こそ変わらないが、汗をかいているし、
「……ふみゃー……」
「……うにゃー……」
ウリエラとサリエラもグロッキーになってガブリエラに運ばれている状態だ。
地上の方を見ると、やっぱりクロエラとジュリエッタも辛そうだ――バイクじゃなくて車ならエアコンあるだろうけどね……。
”――!? え、おかしくない!?”
と考えていた私だったけどはっと気づいた。
いかん、私も『暑さ』で気付かないうちにぼーっとしていたみたいだ。
慌てて皆のステータスを確認すると――やっぱりだ!
”
全員の体力ゲージがわずかずつではあるが減り続けているのだ。
これはおかしい。
いつもの『ゲーム』だと、灼熱の砂漠だろうと極寒の氷海であろうと、暑さ寒さを感じることはないしそれでダメージを受けることはなかった。特記事項として気温が影響を与える、ということが書かれていれば話は別だが……少なくともこのインティのクエストにはない。
だというのに、『暑さ』によってダメージを受けている……ということは――
”
そういうことになるだろう。
……特記事項に書いてないのに、気温が影響するとは流石に思いたくはない……だったら、オオカミの時とかも冷気ダメージがあってもおかしくないし。
私の言葉に、熱でぼーっとなりかけていた皆もまたはっとする。
……いかん、これは『ゆでガエル』ってやつだ。
熱湯にカエルを放り込んだら熱くて飛び出てくるだろうけど、冷たい水からジワジワと茹っていったらカエルは逃げられずにそのまま煮殺される……という話だ。本当かどうかはわからないけど。
それと同じことが私たちに起きようとしていたのだと思う。
じわじわと焼き殺されかけていた私たちだったが、体力が減っていることに気付けたおかげで逃れることが出来そうだ。
「くそっ、姑息な奴め……!」
「みゅ……ってことは――」
「近くにインティがいるってことにゃ……」
ヤバい、体力低めのウリエラたちはもう限界っぽい……!
こんなになるまで気付けなかった私のミスだ……。
いや、嘆いていても仕方ない。すぐに行動しなければ――そう思うけど、他の皆同様、私もいつの間にか暑さにやられていて頭がくらくらとしていて考えが纏まらない……!
”くぅっ……私の体力も削られてる……!? 早くインティを見つけないと……”
このままだとユニットだけではなく
「いみゃ……違うみゃ…………インティよりも……」
「ヴィヴィにゃん……うーにゃんを連れて……離れるにゃ……」
「! しょ、承知しました……!」
朦朧としていても、ウリエラたちは流石に頭が回っている。
とにかくまずはゲームオーバーにならないように使い魔の安全の確保を最優先としている。
……確かにそうだ。私一人が逃げるのは心情的に思うところはあるが、かといって私がやられてしまっては実質全滅を意味する。
折角ヘパイストスやクラウザーを倒して『ゲーム』に集中できる状態になったのだ、ここで変に意地を張って台無しにするわけにはいかない……!
二人の言葉に従い、ヴィヴィアンが《ペガサス》を操りその場からとにかく離れようとする。
”! あ……わかった……”
その瞬間、私はインティの正体に気が付いた。
いや、私だけではなく皆が気付いただろう。
「!? こ、これは――」
青空の中で燦々と輝く太陽――それが
まるで使い魔……私の存在を認知しているかのように、空から太陽が私たち目掛けて落ちてきたのだ!
轟音ととてつもない熱が周囲を襲い……。
……一瞬にしてのどかだった平原は、火炎地獄へと変わっていったのだ。
* * * * *
”と、とんでもない相手だ……”
「ええ、ムスペルヘイムのコアよりも厄介ですね……」
私とヴィヴィアンは《ペガサス》の全力疾走でひたすらに離れていたおかげで、なんとか着弾地点から逃れることができた。
他の皆はというと……。
”……良かった、皆無事みたいだ”
すぐさまステータスを確認したが、リスポーン待ちになっている子は誰もいなかった。
心配だったウリエラたちも、どうやら咄嗟にガブリエラとリュニオンしたことで難を逃れたらしい、
落ちてきた太陽は私の方を狙っていたため皆から少し離れた位置に落下したというのも幸いだったろう。
ただ、無傷では済んでいるわけではない。それどころか、今も尚ガリガリと体力が削られてる状態だ。
「……
地へと落下してきた『太陽』を見て、ヴィヴィアンが呟く。
……そう、あの『太陽』こそが『天』の界獣・インティなのだ。
見た目はもう『太陽』としか言いようがない。
ただ、実際に空に浮かんでいる太陽を直視した時みたいに目がやられるような輝きはない――この辺りはきっと『ゲーム』側で補正をかけているせいじゃないかと思うけど――が、周囲に放つ熱量はとてつもない。
全速力で飛んだおかげでそれなりの距離を離しているにも関わらず、私やヴィヴィアンの体力がジリジリと削られ続けているほどだ。もっと近い距離にいる子たちの体力は更に早く削られてしまっている。
過去に戦ったムスペルヘイム――その最終形態たる小型太陽とほぼ同じと思っていいだろう。
しかし、大きさはムスペルヘイムとは桁外れだ。直径数百メートルはあるだろうか……本物の太陽とはもちろん比べるべくもないが、地上においては超巨体と言えるほどの大きさである。
……その超大型に分類されるモンスターが、周囲を無差別に焼き払うとんでもない熱量を放っているのだ……。
”……あんなの、どうやって戦えばいいんだ……?”
かつてムスペルヘイムとの時にも思ったけど、今回はそれよりも強く思う。
あの時はキャプテン・オーキッドの霊装やプラムの《
……私たちだけで、ムスペルヘイム以上の脅威をどうにか倒さなければならないのだ。
オオカミ、アンリマユ……どちらもまだ対策が練れていないけど、インティは三体の中でも別格じゃないかと思える。
いや、暗くなっている場合じゃない!
『”皆、とりあえずそいつから離れて!”』
近くにいるだけで継続ダメージを食らう相手だ。経験者のジュリエッタはわかっているだろうけど、皆へと警告を飛ばす。
『わかってる! が、くそっ……!?』
『”アリス!?”』
だが、間に合わなかった。
アリスの体力がゼロとなりリスポーン待ちへ。
続いてジュリエッタも……。
リュニオンしたガブリエラ、ルナホーク、クロエラは危険なところまで削られたけど何とか無事のまま逃げ切ることができたみたいだ。
……当然だけど、火力もムスペルヘイム以上か……これじゃあ、仮にオーキッドがいたとしてもどうにもならないかもしれないな……。
『”……撤退しよう”』
成果と言えるのは『インティがどんなモンスターか』がわかったくらいだけど、ここで無理をする必要もないだろう。
他二体と同じく、とりあえずは様子見ということでここらで引いた方が安全だと私は判断する。
しかし、
『
『そうだみゃ、もうちょっとだけインティを見せて欲しいみゃ』
『突破口が全然見えにゃいけど……ここで引いて再チャレンジしても同じことになると思うにゃ』
『う、うん。ボクからもお願い』
『”皆……”』
三連敗はもはや確定だけど、それでも『後』のために少しでも手がかりを得たい――そういう思いは皆も持っているようだ。
「ご主人様、わたくしが防御に専念いたします。ですから、皆さまの仰る通りギリギリまで粘った方がよろしいのではないでしょうか?」
”…………わかった”
皆の決意を受け、私も決断した。
どうせいずれ戦い倒さなければならない相手なのだ。ならば、今回の挑戦で可能な限り今後のための情報を得ようとするのは、決して無駄にはならないだろう。
アリスとジュリエッタのリスポーン時間のギリギリまで粘ってインティの情報を集める――そしてリスポーン待ちの時間が切れる前に撤退、そうしよう。
私の許可を得て、ヴィヴィアン以外の残ったメンバーが果敢にインティへと挑んでいく……。
……しかし、インティは『格』が違った。
その場から動かなかったムスペルヘイム・コアとは違い、自由自在に動けるようだ。
燃え盛る太陽がゴロゴロと転がり、跳ね、自らの意思を持って追いかけまわしてくるのだ――脅威度は桁違いだろう。
しかも、積極的に炎を噴き出したりして攻撃まで仕掛けてくるのだ。
”…………マジで手が付けられないな……”
「はい……」
今は近くのユニットを狙っているようでこちらへと直接攻撃は仕掛けてこないけど、いつまた狙われるかわからない。ヴィヴィアンも緊張の面持ちを崩さない。
「くっ……こうなれば――ゲート!」
ガブリエラが
アストラエアの世界での戦いについて、ウリエラたちから話は聞いている。
予想だけど、『ガブリエラが勝てない相手』であれば出てくるであろう『地獄門』を狙ったのだと思う。
……周囲の味方が巻き込まれる可能性はあるけど……。
「あ、あれ?」
だが出てきたのは『闇』属性の門だった。
開いた門から墨のような闇が溢れ出し、周囲を包み込もうとするが――その闇をインティの光が払ってしまう。
そしてカウンターとばかりにレーザーを四方八方へと放ち、一気にこちらを全滅させようとしてくる。
「……! これは――」
全員が何とかレーザーを回避できているものの、近づくことすらできていない。
そんな時、クロエラが一瞬何かに気付いたかのように呟くが――
”!? 拙い、爆発する!”
ムスペルヘイムの時と同様、インティが収縮を繰り返す。
回避不能の全方位爆破をするつもりだ――過去の経験からそれがわかった。
”……撤退!”
今度は皆の意見を聞かず、私はすぐさま『離脱』を使って脱出することを選択した。
……杞憂だったらいいけど、離れたヴィヴィアンにまで爆風の余波が来ると想像できる。
もしそうなったら本当に全滅だ。全方位攻撃は《イージスの楯》でも防ぐことができないだろうし。
――『離脱』を使う瞬間、私たちの視界が真っ白に染まり……私は、自分の考えが間違っていなかったと確信したのだった……。
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