第8章89話 Requiem for a Bad Dream 7. ゾンビ対策会議

 エル・アストラエアの『真の避難場所』――昨夜の襲撃の際にピッピが街の人を匿っていた本当の場所、それは『神樹』のにある。

 文字通りの下、つまり『地下』だ。

 『神樹』のとてつもなくでかい根っこの隙間を縫うようにして作られた地下洞窟……そこに街の人全員を避難させても尚余りあるくらいの広大な空間が広がっているのだ。

 地下洞窟の周囲は根っこに守られているし、地下からの攻撃はかなり難しい。

 だから昨夜の妖蟲ヴァイスたちもここを攻めることは出来なかったのだ。巨大ミミズであっても、複雑に入り組んだ木の根の迷宮を突破するのは難しかっただろう――まぁそれとは関係なく街の方に出現したようだけど。


 この地下避難所の存在は、元々は街の人には知らされていなかったらしい。

 各所の避難所からピッピがワープさせることでのみ入り、避難が解除されたらまた同じようにして送り返す……という想定だったみたいだ。

 ただ、今回はピッピが動くことが出来なかったため、避難所の人たちは普通に出て行ってしまったみたいだけど……。

 人々の『ストレス』とかを考えれば、襲撃が一段落したところで帰すというのは間違った判断ではなかっただろう。

 特に指導者ピッピからの指示が何も来ないという状況だったのだ、避難民を帰すという判断を責めることは出来ない――実際、私が攫われずに街に残っていたとしたら同じ判断をしたと思うし。




”……ピッピ……”


 ゾンビを避け、ベララベラムに見つからないようにひたすら高速移動をしたり隠れたりしながら、私たちはようやく『神樹』の根本にある隠された入口から避難所へと入ることが出来た。

 途中でベララベラムを振り切ったらしいノワールも合流し、アリスを除く全員で避難所へと入り更に奥へ。

 そこにはアストラエアの巫女さんたちと婆やさん、そしてベッドに横たわるピッピの姿があった。

 胸の傷は相変わらず塞がっておらず、どくどくと血が溢れ出している。

 ……明らかに致命傷、というか刺されてからの時間を考えれば死んでいてもおかしくない傷なのだが、辛うじてまだ息があるようだ。


「ラビ……皆……よく、無事で……ごほっ」

”ピッピ! 無理して喋らないで!”


 今まで無事だったからと言って、これからもピッピが無事でいられる保証はない。

 本当に厄介なギフトだ。使い手のユニットは倒したというのに効果が切れないなんて……!

 念のためウリエラのギフトの対象となるか確認してもらったけど、やはりピッピの傷は魔法ではなくギフトであるようで、【消去者イレイザー】で傷を消すことは出来なかった。

 ……ピッピの命が尽きる前にナイアヘパイストスをどうにかしないと……!


「ラビサン、おかえりなサイ」

”あ、オルゴール! 君も無事だったんだね。良かった……”


 相変わらず人形っぽくて表情が読みづらいが、少し疲れたような様子のオルゴールもやってきた。


「きゅっきゅー!」

「まぁ、キューちゃん様!?」

”キューも無事だったんだね”


 ナイア……じゃなくてマサクルに蹴られて重傷だったキューだけど、《ナイチンゲール》によってすっかりと元気になっているみたいだ。

 ノワールたちに着いて、この子も無事に逃げられたようだった。


「ふむ、アストラエアの遣いたちよ。一先ず状況の確認をさせてもらうぞ」

”そうだね……私たちの方とノワールたちの方、色々と情報をすり合わせよう”


 のんびりしていられる状況ではないが、かといってお互いに情報共有せずにそのままというわけにも行くまい。

 アリスを強制移動で呼び出し、私たちは一旦腰を落ち着けて互いの持つ情報を共有することとした……。




*  *  *  *  *




 ノワールたちの話をまとめると、大体こういう流れだったようだ。




 まず囚われた私とサリエラを救出するためにアリスたちが『エル・メルヴィン』へと向かった後――

 避難していた人たちが街へと戻っていった。

 当面の危機は去ったであろう、ということとピッピとその時は連絡がつかなかったこともあり、八巫女がそう判断したということだ。

 ……これは正直、私たちやピッピが彼女たちにロクに情報を与えていなかったことが原因だ。むしろ私たちが謝罪すべきことだろう。

 ともかく、避難所から人々が戻ってきて自分たちの家に帰って行くのをノワールたちも見ていたらしい。


 で、それからしばらくして――時間的にエル・メルヴィンで人質交換が始まるかどうかってところかな?――異変が起き始めていることに、まずはノワールが気が付いた。


”……ゾンビが現れだしたのがその辺りか……”

「うむ。街の一画で現れたのじゃが……」

「その後、瞬く間にゾンビが増えていきまシタ」


 ……本当にゾンビ映画みたいな感じだな……。

 ちょっとこのゾンビが増える仕組みについてもよく考えなければならないだろう。が、今は置いておこう。




 そして増え続けるゾンビに気付いたノワールたちが対処に向かったのだが、そこに現れたのがベララベラムだったという。


「彼奴を抑えるためにガブリエラが向かい、その間に我らが『ぞんび』の足止めと避難を行っていたのじゃが……」

「今度は、蟲のゾンビが現れたのデス」


 昨夜の襲撃後も始末しきれなかった妖蟲の死骸までもがゾンビとなり、襲い掛かって来たのだ。

 ベララベラムと戦うガブリエラにも妖蟲ゾンビは容赦なく襲い掛かっていき……そして……。

 流石に言いにくそうにノワールとオルゴールも口ごもるが、


「……りえら様もゾンビになっちゃった、ってことかみゃ……」

「……う、む……」


 ウリエラとサリエラは半ば予想はしていたようだ。

 ……ジュリエッタがゾンビになるところも見ていたのだ、聡い彼女たちならば簡単に予想はできただろう。

 どちらも感情が抜け落ちたような無表情でいるため、内心を窺うことは難しい。


「話の続きをお願いにゃー」


 でも、二人が感情を押し殺しているのはわかる。

 本当はガブリエラのことが心配で堪らないだろうけど、そのことに拘っていても事態は解決しないことをよくわかっているのだろう。

 二人のただならない様子に一同は気圧されるものの、ノワールとオルゴールは続きを語る。


「そこから先は防戦一方じゃった。辛うじてオルゴールがガブリエラを抑え込むことはできたのじゃが、『ぞんび』の感染は止まらず……」

「やむを得ズ、ワタクシたちは神殿へと撤退、巫女サンたちとこの避難所へと逃げ込みまシタ……」

「その際にガブリエラたちを神殿に封じ込めはしたが……」


 後で必ず帰ってくるであろう私たちのことを考え、ガブリエラや子供たちのゾンビを神殿に封じ込めてすぐに戦えないようにしてくれていたみたいだ。


「そのベララベラムってやつの『叫び』だろうな、そのせいでゾンビ共が活発に動き出して神殿の封印も破られたようだぜ」


 アリスがそう捕捉する。

 ベララベラムの『叫び』――確かに言われてみればその通りだ。ヤツの『叫び』に応じてゾンビが現れたり活性化していたように思う。

 ……ゾンビ化させるだけでなく、ゾンビをある程度操る力を持っていると思って間違いないだろう。


”ノワールのその傷は……?”

「うむ、撤退する際にベララベラムとやらにな……」


 ノワールたちの身体は人間のように見えても微妙に異なる。むしろユニットに近いものだ、大けがを負っても人間とは違って動くことは可能みたいだ。

 ただし、ブランで確認した通り《ナイチンゲール》で治すことは出来ない。

 ……参ったなぁ、ガブリエラとジュリエッタがゾンビ化している今、かなり頼れる戦力であるノワールが満足に戦えない状態っていうのはかなり痛手だ。


「ともあれ、我らはアストラエアたちと共にこの場に避難し、其方らが戻ってくるのを待っておった」

”なるほど……それで街の方が騒がしくなって、私たちが帰ってきたと思ったから、ノワールが迎えに出て来てくれたってわけか……”

「そういうことじゃ」


 ダメージを負っているにも関わらずノワールが来てくれたことは感謝だ。

 彼女が来てくれなかったら、こうやって合流することも出来なかったしピッピの安全を確認することも出来なかっただろう。




 それから今度は私たちの方の話を軽くする。

 若干意識が朦朧しているみたいだが、ピッピにも聞いてもらう――っていうか、むしろメインはピッピに聞いてもらうって感じなんだけど。


「…………最悪ね……」


 苦しそうに顔を歪めつつも、ピッピはそう一言で纏める。

 『最悪』――うん、まぁ確かにそうとしか言い表せない状況だよね、これ……。


「ヘパイストス――いえ、ナイアの動向は、私の方で何とか……ぅぐっ……」

”ごめん、ピッピ。そっちの方は君に頼るしかない。

 だから私たちは――”

「ゾンビ女をぶっ倒す、だな」


 そうなる。

 ナイアたちがエル・アストラエアに最終攻撃を仕掛けて来るのはそう遠い話じゃない。

 だからと言ってこのまま隠れ続けていても事態は好転しないし、そもそもナイアが攻めて来る前にベララベラムによってエル・アストラエアが壊滅――下手すると私たちが全滅させられかねない。

 とにもかくにも、まずはベララベラムを何とかしてゾンビ化を止める。そうしなければナイアと戦う土俵にすら立てないだろう。


”……よし、とにかくベララベラムの対策を考えよう。ウリエラ、サリエラ”

「大丈夫だみゃ、わたちは冷静だみゃ」

「あたちもにゃ」


 ガブリエラのことが心配だろうけど、ベララベラムをどうにかするには二人の頭脳が頼りだ。

 ここでしっかりとヤツの対策を考える。ガブリエラとジュリエッタ、そして街の人々のゾンビ化を何とかするのはそれからだ。


”ノワールとオルゴールも、ベララベラムの能力についてわかったことがあったら教えて欲しい。とにかく、まずはあいつをどうにかしないと”

「うむ。よかろう」


 私たちよりも先に、そして長い時間ベララベラムと戦っているのだ、気付いたこともあるだろう。


「わたくしはピッピ様の容態を。他にも怪我をした方がいらっしゃれば、《ナイチンゲール》での治療を行います」

”そうだね、よろしく頼むよ”


 ただ、まぁピッピについては完治は無理なのはわかっているけどね……また石化させた方がいいのだろうか。

 その辺はヴィヴィアンとピッピの間で相談してもらえれば……。




 さて、私とアリス、ウリエラ・サリエラ、ノワールとオルゴールとでベララベラムについての考察だ。

 ちなみにクロエラはまだ意識を失ったまま――こちらも不安なので《ナイチンゲール》さんに診てもらうことに――ブランはぐったりとしたままだけど、一応話し合いに参加してもらうことに。ノワールの膝枕でゴロゴロとしている。


”とりあえず、ヤツについてわかったことを纏めよう”


 全員の情報を纏めてわかったことは以下だ。


 持っている魔法は、推定で『3つ』。

 一つ目は『ロトゥン』――触れたものをぐずぐずに腐り落とさせる黒い霧を発生させる、一撃必殺になりうる凶悪な攻撃魔法だ。

 恐るべきは召喚獣だろうがノワールたち結晶竜インペラトールだろうが、更には魔法であろうが腐らせることができる殺傷能力だろう。

 しかも『黒い霧』状の魔法のため、ぶわっと広がって襲い掛かってくる特性があり、それがまた厄介だ。

 『腐る』という事象について突き詰めて考えていけば何かしらの防御方法はありそうだけど、今いるメンバーの中で防御できそうな子がいないんだよね……まぁこれはガブリエラたちがいても変わりないとは思うけど。ヴィヴィアンの《イージスの楯》ならワンチャン防げるかも? とも思うけど、楯が苦手とする広範囲攻撃だから防ぎきるのは難しいかもしれない。


 二つ目は『エンカウント』。これはベララベラムが《ペガサス》に突然追い付いて襲い掛かって来た時にウリエラたちが感知した魔法だ。

 アリス曰く『モンスターと遭遇すること』っていう意味だという。ウリエラたちが魔法の名前と効果が繋がらなくて首を傾げていたので、多分ゲーム用語なんじゃないかな。

 効果は正確なところはわからないけど、起こった事象から考えると『ベララベラムの瞬間移動』だろう。

 ただ、私たちが無事に避難場所まで逃げ切れたことを考えると、おそらくは無制限にどこにでも移動できるというわけではないとは思う。

 ……多分、『ベララベラムが相手の位置を認識している』かどうかっていう制限はあるだろう。でなければ私たちは逃げきれてないだろうしね。

 …………そうか、これってある意味『ゾンビ映画のゾンビ』っていうか『ホラー映画のモンスター』的な能力なのか。『いないと思ったら突然現れる』とか正に映画のモンスターみたいだ。

 対処方法は、まぁ逃げるのではなく戦うのであれば特に気にする必要はない……かな? 多分……。


 三つ目にして最大の問題が『インフェクション』……名前からして、これこそがゾンビ化の原因だと推測できる。

 そのものずばりの感染魔法インフェクションだろう。

 実はこの魔法の存在自体は、ウリエラとサリエラは気付いていた。

 気付いてはいたが対処が出来なかった理由は――


「実はこっそり【消去者】使ったけど、すぐにまたインフェクションが使われてたみゃー」

「おっかないから【贋作者カウンターフェイター】は試してにゃいけど、ずっと使われ続けてるってことは間違いないにゃー」


 とのことだった。

 二人はギフトの効果で『現在使用中の魔法』を調べることが出来る。これってギフトそのものを使わなくても、発動中の魔法がわかるという点でものすごく優秀な探知系能力だと思う。実際、サリエラはこの能力を使って昨日あの暗殺者型のピースの魔法を突き止めて追い詰めたわけだし。

 欠点としては『ギフト使うぞ』と意識している時じゃないと探知できないってことかな。だから敵と対峙している時はともかく、そうではない時には不意打ちを食らう可能性はある――ずっと気を張っているのも大変だし、元が探知系のギフトじゃないのでそれは仕方ない。

 それはともかくとして、二人の能力で発動を常に感知している。そして【消去者】で消してもすぐに再発動するということは……。


自動発動魔法パッシブスキルだろうね。結構レアなヤツだな……”


 事前に想定はしていたが、やはり本人が意図せずに常に発動状態となるタイプの魔法なんだろう。ジェーンの超感覚魔法ユーバーセンスもそうだけど、ある意味ギフトにも似ている能力だと思う。


”……【消去者】でゾンビ化の治療ってできないかな?”

「……多分無理かみゃー? インフェクション自体、ベララベラムの方で発動してたっぽいみゃ」


 まぁそうなるか。

 もしインフェクションの効果でゾンビ化している、というのであればにインフェクションが発動していることになる。

 それなら【消去者】で消すこともできたのだけど、どうもそうではなくベララベラム本人の方に発動しているっぽい。

 となると、


”インフェクションは――『ゾンビ化するウィルスを撒き散らす魔法』って感じかな”

「そうだろうにゃー」


 ということになるか。

 仮定ではあるけど、これはかなり厄介なことを意味している。

 何がかというと、あくまでインフェクションは『ゾンビ化の元を出す』魔法だということになり、可能性が高くなったということだ。

 炎の魔法で例えてみよう。

 炎の魔法インフェクションで周囲に火を放ち、延焼させたとする。

 で、その後魔法を使っている張本人を倒したとして……果たして周囲に延焼した炎が消えるかどうか? と考えればわかりやすいと思う。

 まぁケースバイケースではあるけどね。私の知ってる範囲の魔法の知識だと、おそらく延焼した炎は消えない、だと思うし基本的に『最悪』のことを想定して行動した方が良いだろう。

 私の意見にウリエラたちも同意する。


”ゾンビ化の治療方法については……うーん、どうしよう……”


 考えなければいけないけど、何をどうすればいいのか思い浮かばない。


「……そっちについてはあたちに考えがあるにゃ。とりあえず、そこは置いておいてベララベラム対策を続けるにゃー」

”そう? わかった”


 流石、と言いたいところだけど……ガブリエラのこともある。ちょっとサリエラの考えに不安がないわけでもない。

 とはいえ今サリエラの考えを深堀してもあまりいい答えは返ってこないだろうし、彼女の言う通り先にベララベラム対策を考えた方が良いだろう。


”インフェクションでのゾンビ化の条件がはっきりわかればなぁ……”

「うーみゅ、空気感染はしないと思うみゃー。でなけりゃ、わたちたちもとっくにゾンビになってたと思うみゃー」


 それは確かに。


「ベララベラム本人に噛まれたりしたらアウト……なんじゃないかにゃー」


 ジュリエッタがゾンビ化した時、確かにヤツに噛まれた跡があった。

 未だに意識を失っているクロエラの方は噛み跡もなく、ゾンビ化する兆候もない……。

 サリエラの考えは当たっているんじゃないかな。


「ふむ、その点についてはおそらく彼奴に触れるだけで危ういかもしれぬな」

”うげっ!?”

「ハイ。ガブリエラサンは敵の攻撃を食らってなかッタはずデスが、あのヨウなことニ……」

「ふにゃー……ってことは――唾液とか体液とか、かもしれないにゃー」


 迂闊に近接攻撃を仕掛けるわけにもいかない、か……ガブリエラとジュリエッタにとっては最悪の相性だったみたいだ。事前にわかっていれば警告も出来たけど……後悔しても仕方ない。


「気になるのは、ベララベラムのゾンビでも感染させることが出来るか? ってとこじゃねぇか?」

”う、それは……”

「……出来る、と考えた方が良いだろうな。でなければ、あれだけの速度で『ぞんび』化が広まるとは思えん」


 これまたやっぱり映画のゾンビと同じかー……。

 そうなるとやはりインフェクションはゾンビ化のきっかけなのであって、ゾンビ化の原因となるウィルスとかが別個存在していると考えられるか。


「……だとすると拙いな……オレ、結構ゾンビと触ってたんだが……」

”うーん、でも今のところ問題はなさそうだけど……”

「念のため、オレはここから出て行った方が良さそうだな。今更かもしれねーが。ま、ついでに外の様子を監視してるぜ」


 そう言うとアリスはすぐさま避難所から外へと出て行こうとする。

 ……大丈夫だとは思うんだけど、万が一避難所内でゾンビ化してしまったとしたら……やっぱりゾンビ映画のお約束の内部崩壊になってしまいかねない。


「あ、そうだ。使い魔殿、ウリサリも」

”なに?”

「ガブリエラと戦ってて気づいたんだが……もしかしたらだが、ゾンビになっていても意識は残ってるかもしれないぞ」


 外へ行こうとする前に、アリスは思い出したみたいだ。

 実際にゾンビと一番長く戦っていたのはアリスだし、彼女にしか気づかない何かがあったのだろう。

 詳しく話を聞いてみると――なるほど、確かにガブリエラの行動はゾンビ街の住民たちを守ろうとしているように思えるし、その逆にゾンビたちもガブリエラの助けになろうとしていたようにも思える。

 それに……。


”ベララベラムの『叫び』があるまでゾンビたちが家に閉じこもっていたのも、もしかしたら関係あるかもしれないね”


 『ゾンビらしい』演出であると考えられなくはないが、少ししっくりこない。

 演出だったら……ベララベラムと遭遇する前に建物の中からわらわらと出て来る……とかじゃないかなぁと思うのだ。まぁ私、ゾンビ映画好きじゃないからあんま見てなかったからセオリーとか知らんけど。


”わかった、ありがとうアリス。他にも気づいたことがあったら――”

「ああ、監視しつつ遠隔通話でも送るわ。

 じゃ、オレは行くぜ」

「ふむ、であれば我も共に行こう。我はどうも『ぞんび』化しないようであるしな」

”そうなの?”

「うむ……彼奴にも触れたし、噛まれたりもしたが特に変化はない」


 ……ユニットやこの世界の人間と、結晶竜とは見た目が似ていても身体の構造が全く異なっているのだろう。

 ノワール、そしておそらくブランもインフェクションが通じない。これは現状を打破する鍵となるかもしれない。


”わかった。ノワール、アリスのことお願い。後、ダメージを受けているところ悪いんだけど、ノワールがベララベラム攻略の鍵になるかもしれないから――”


 くれぐれもやられないように、と続けようとした私だったけど、その言葉を遮るようにノワールは微笑みながら言った。


「案ずるな、アストラエアの遣いよ。我も負けるつもりはないが……いざとなれば、ブランがおるからな」

”ノワール……?”


 まるで自分がこれからいなくなることを知っているかのような――自分の『死』を受け入れているかのようなノワールのその態度に、一抹の不安を私は覚えるのであった……。

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