第77話:呪胎哭魑

 ◇結菜side◇

目の前異に居る私とそっくりの彼女は自らを酒呑童子と名乗った。


「でも、どうして酒呑童子さんが私の中に?」


「うーん……恐らく私の配下、茨木童子か私の子供である鬼童丸かな鬼道が使えるのは奴等だけだし」


「そうなんですか……」


「それにしても、私なんて生き返らせる事をしなくて良いんだがなぁ……」


頭を掻きながら言う酒呑童子さん、なんか思ってたよりも悪い人じゃ無さそう?


「それで、その……酒吞童子さんを生き返らせる鬼道ってあるんですか?」


「あるよ、呪胎哭魑じゅたいこくちって言うんだけどね。まぁ、名前の通り。蘇生じゃなく生まれ変わりだけどね」


「生まれ変わり……」


「うん、生まれ変わり。妊娠した女性の体を贄にして私の魂を組み込んだ赤子を産み出させるんだ」


とろんとした目で見て来る酒呑童子さん、言いえも知れぬ背筋の悪寒が私を襲う。


「で、でも私、妊娠なんてしてないですよ? そんな事をする相手も居ませんでしたし……」


「そこなんだよね……君は恋人はいないのかい?」


「い、いないですよ!?」


「ふーん……でも君のその反応は好きな人は居るんだね、へぇ……」


ニヤニヤしながら私を見て来る酒吞童子さん、その視線は私を見透かしてる様だ。


「まぁそこは一旦置いといて……本来なら妊娠した女性に行う鬼道をまだ妊娠してない女性に行ったというのがね……」


「それって……私……」


身体に悪寒が走る……そんなの嫌だ……。


「うーん、その可能性は無きにしも非ずだけど……限りなく低いんだよね」


むむむと唸りながら言う酒吞童子さん。


「どうしてですか?」


「うーんとね、呪胎哭魑を使うのは基本的に十月十日の頃合いなんだ。早々にこの鬼道を植え付けて母体に死なれたらどうしようもないからね」


「でも……確証は無いんですよね?」


そう言うと、酒吞童子さんが眉を顰める。


「だって、私が生まれる鬼道を私が使った事無いもん。私がやられる前に茨木は死んでるし、息子の鬼童丸もそこまで膨大な霊力は無かったからね。それに後世の陰陽師が拍付けの為に私を生まれ変わらせて調伏する為に妾に施した事もあったけど……全部失敗だったしね」


「そうなんですか……」


「うん、その時も魂は植え付けられたけど、殆どの母体が自死を選んじゃったからね、成功例は一つも無いよ。それに生娘や妊娠初期の娘に施したら母体が持たなかったからね……」


寂しそうに言う酒吞童子さん、まさかこの人……女性?


「あ……」


「ただ、今回は違うんだ……茨木はどこからか膨大な霊力を使って、無理矢理人に鬼道を植え付けた、恐らく1日2日で私は産み落とされるだろう……君の胎を裂いてでも……」


「えっ……そんな……」


「そこでだ、私もそんな事は望んでいない。故に頼みがある」


「な、なんですか……?」


「それはな……」


私に近づいて、耳打ちをして来る酒吞童子さん、その内容に頭が沸騰し始める。


「という訳だ、頼んだぞ」


「わ、わかりました……」


姿形の無い筈の酒吞童子さんに背中を押され、私の意識が浮上して行った……。



◇◆◇◆◇◆◇◆

目の前には険しい顔をした結菜と結弦さんと菜緒さん、そして耀が連れて来た俺の奥さん達全員が座っている。


(どうしてこうなった!?)


「あーうん、すまないが結菜、もう一度言ってくれないか?」


結弦さんが険しい顔のままそう言った。


「ですので、私が生きる為に、優希さんと子を成します!」


「それはつまり、優希君と結婚するという事なのかい?」


狼狽しつつも話を進める結弦さん。


「いえ! 結婚はしませんが、優希さんとの子を成します!」


真っ直ぐ俺と結弦さんをみて言う結菜。


「————きゅぅ……」


菜緒さんが倒れた。そりゃ誘拐されて戻って来た娘が俺と結婚せずに子作りだけすると宣言したら倒れるよ。


「お父さん、話が見えないんだけど……どうしてだい?」


涙を浮かべつつ努めて平静を装いながら聞く。


「それはわた……妾からさせて貰おう……」


「「「「「!?」」」」」


俺達が咄嗟に武器を構える、目の前にいるはずの結菜の存在が一瞬で変化したからだ。


「驚かせてすまない、妾は酒吞童子。古来より鬼の大将として存在していた者だ。皆にもこの身体にも危害を加えるつもりも無いから、どうか武器を降ろしてくれないか?」


そうは言われても、安易に武器を降ろせる筈が無い。


「大丈夫です皆さん! 私が保証しますので。どうか!」


存在がまたもや入れ替わった結菜が止めに入る、渋々ではあるが皆武器から手を放す。


「すまない、だが聞いてくれ。これは結菜に関する重要な事でな……」


経緯を話し始める酒吞童子、要は茨木童子に植え付けられた鬼道のせいで今日か明日にでも俺と子を作らないと結菜の命が危ない様だ。


「でも、呪いなら解呪出来るし、蘇生なら出来るんだけど、そこまでしないと駄目なの?」


「あぁ、この鬼道は呪いでも無いからな、呪詛返しや解呪なんて使えない。それに結菜の魂を喰らって生まれるんだ。優希殿の力では魂の再生は出来ない故な……」


「でも、結菜の気持ちは? そんな好きでもない男となんて嫌だ……ぐっはぁ!?」


殴り飛ばされた……耀に……。


「皆! やってしまいなさい!」


奥さん達にどつかれ始める俺、エアリスやリリアーナまで叩いて来る。


「ちょ!? 何で!? いたたた! 剣先でつつかないで!!」


一体どうしたんだ!? やけに皆呆れ顔だし。


「あのねぇ……いや、結菜ちゃん。言ってやりなさい!」


「ふぇ!? 私がですか!?」


ポンと音を立てた様に真っ赤になる結菜。


「そうよ、流石にそれを私が言うのはお門違いだもの。自分の気持ちは自分で伝えなさい!」


「わ、わかりました…………」


更に赤くなる結菜、深呼吸して意を決した表情で口を開く。


「あ、あの……嫌じゃ……無いです……」


「へっ?」


「だから、私! 優希さんの事が好きなので! 嫌じゃないでしゅ!」


盛大に噛んで思いを告白してきた結菜だった。



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作者です。

もうちょい結菜パートは続きます


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