第49話:着物選び①

「まずは三条さんのお店で着物を用意してもらったんで、そこでみんな好きなのを選んでね」


手配してもらったバスに乗りながら説明を始める、今回は三条さんの娘さんの牡丹さんが是非にという事で好意に甘える事にした。


「おにーさん……今、三条って言った?」


冬華の食いつきが凄い、身を乗り出して顔を近づけて来る。まぁびっくりさせたくて俺と巴ちゃんは秘密にしてたからなんだけどね。


「うん、言ったよ。それと、危ないから座席に座ろうね」


「そんな事はどうでも良いの! 三条ってあの『SANJO』の事!?」


「うん、冬華の好きな『SANJO』だよ」


それを聞くと冬華が座席へ、ストンと腰を下ろし放心する、そこまでだったのか……。


「えっと……冬華、大丈夫か?」


「うん、大丈夫。驚き過ぎて一瞬心臓が止まっただけだから……」


天を仰いで、真っ白に燃え尽きてる冬華。お店入ったら昇天しそうだな……。


「そうか……話、続けて大丈夫そうか?」


「えぇ、大丈夫……」


うーん、冬華にウチの会社とSANJOとの提携話を伝えても大丈夫なのだろうか……。


「とりあえず、話を戻すね。お店についたら好きな着物を選んでね、それを着て観光名所を回ろうか、何か質問ある人」


そう聞くと、エアリスがスッと手を挙げる。


「はい、エアリス」


「その、ユウキ様の着物はもうお選びに?」


ん? なんか予想と違うけど……まぁ良いか。


「えっと、まだ選んで無いよ。お店にある奴を適当に合わせるつもり」


そう言うと、皆の目つきが鋭くなった。


「えっと……みんなどうしたの?」


「大丈夫です、優希様には関係ありませんので」


「そうね、私達に関係ある事だから」


そして、突如じゃんけん大会が始まるのだった。



◇◆◇◆

という事で、三条さんのお店に到着する、周囲がざわざわとしているが構わず入店する。


「いらっしゃいませ、上凪様と奥方様方々、三条呉服店へようこそ。お話は社長より承っておりますので、皆様どうぞこちらに」


ビックリするくらいの美人な店員さん……ってこの人この間の御前試合で会場設営してた人だ。


通されて二階へ行く、ここは俗にいうVIPルームという事らしい。


「いらっしゃいませ。上凪様、奥方様方々、私が【SANJO】の社長をやらせてもらっております、三条 牡丹でございます。本日は私の我儘に付き合ってもらいありがとうございます」


「お久しぶりです、牡丹さん。あれから体調は問題無いでしょうか?」


「はい、上凪様に治療いただきました呪術師全員、すこぶる元気でございます」


「それは良かったです。それと、例の件はまだ秘密にして下さい、ちょっと想定以上の衝撃みたいで、さっきから放心してて……」


冬華へ視線を向けると、ポカンと口を開けて目が点になっている。お店に入る前はラマーズ法をしてたし相当な衝撃の様だ。


「そうなんですね、それでは後日改めてご相談させていただきますね。それと着物を選び終えたら、お写真をよろしいですか?」


「「「「「写真?」」」」」


聞いていた皆が首を傾げる、そういえば説明し忘れてた……


「あー忘れてた……すまん。一応今回、ご厚意とはいえ着物を無償で貰うのは悪いと思ったからSANJOの広報用として写真を提供する事にしたんだ。それとエアリス達がこちらの国での文化に触れてる所とかを大使館の広報用にしようと思ってね。無論、写真が嫌という人は言ってね」


「そうでしたのね、大丈夫ですわ」


「えぇ、私も大丈夫よ」


「私も大丈夫」


皆が次々と了承をしてくれる、異世界組もだが耀達も快くOKしてくれる。


「こう……広報……?」


放心しているただ一人を除いて。


「冬華? 大丈夫か?」


冬華に近づき目の前で手を振る。


「はっ、信じられない事の連発でトリップしてた……本当なのおにーさん!?」


「うん、本当だよ」


「私、おにーさんのお嫁さんやってて良かったかも……」


涙を流しながら喜ぶ冬華、なんか予想外の喜び具合で嬉しいやら複雑やらな感情がある。


「そ、そうか……そう言ってもらえて良かったよ」


「そこまで喜んでもらえて嬉しいですね、それでは皆様、ご自由にお選びください。ヘアスタイルの変更やメイクアップもこちらでご用意しておりますので」


「「「「「はい!」」」」」


そして着物選びがスタートした。


◇◆◇◆

「という訳で優希、私のを選んで頂戴」


真っ先に捕まった耀に連れられ、着物の山の前に引っ張られる。


「良いの? 折角自由に選べるのに……」


「うん、自分だといつもの柄や色にしちゃうから、優希の直感を頼りしたいのよ」


確かに、耀がいつも着ている服の色やデザインは殆どが似通っている、そうなると選ぶものとしては同じになりやすいか……。


「わかった、耀が選ばなそうな物を数個選ぶから、合わせてみて決めようか」


「やった!」


小さくガッツポーズする耀、可愛らしいなぁ。


それはそうと考えないと、耀の普段の服装はベージュやブラウン、モノトーン系が殆どだしそうなると全体的に明るめの色が良いな……。


「っと、ここらへんかな?」


取りだしたのは鮮やかな赤から裾に向かうと深い緋色にグラデーションがされている着物で小さく梅の花が各所に刺繍されている。


「おおぅ……結構大胆な色ね……私に会うかしら……」


「大丈夫、耀の髪色と合うだろうからね」


「むむっ……優希が言うなら合わせてみますか!」


そう言って着付けをしに、カーテンの向こうへと入って行った。




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作者です。


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