第18話:細川君②

「はぁ……はぁ……それで、どうして細川君をこんなボコボコに?」


身体強化無しでの運動によって息が切れる、お陰様で細川君はたっぷりの霊泉水の中で浮かんでいる。


「まぁ一言で言うと、こ奴は意固地になっていたのじゃよ。心のどこかで身体強化に甘えず己の力だけでどうにかできると。ユウキよ、何かこ奴の自信をつけさせる様な事をしたかのう?」


石の上に座りつまらなそうにティアさんが言葉を放る。


「うーん……初日に模擬戦をしたくらいかな?」


「それじゃな。ユウキの事だ、身体強化無しでやっていい勝負とかだったんじゃろ?」


「うっ……ナゼソレヲ……」


「馬鹿言え、お主の師匠を見てたらわかるわ。シュウジやユミュリエルを見ておったらわかるわ」


確かに、あの二人は武人だしな。対人戦は正々堂々だし、俺も影響はかなり受けて無い訳が無い。


「でも何で一目でわかったんですか?」


「うむ、そこは勘と経験じゃな。戦って、確信したがな。こ奴は自分のブジュツに絶対的な信頼を置いておる。それ故、本能で身体強化を拒んでいたんじゃよ」


「そうだったんですか……」


「それでいて自分のブジュツが及ばない相手とわかれば一気に消極的になりおる。腕がちぎれても頭だけで噛みつきに来たお主みたいな強さに貪欲な奴とは違うんじゃよ」


「でも、強くなりたいから教えてくれって言われたんですけど……」


「それはアレじゃろ、お主の技や戦い方がわかればそれを対策して自分が勝つ。お主も【タカナシリュウ】のブジュツを使ってるじゃろ、こやつにも型や決まった剣筋があった。それを踏まえ勝つことで、自分のブジュツは絶対的なモノだという驕りが欲しかったんじゃろうて」


つまらなそうな顔で言うティアさん。そういえば、この人はどっちかというと極めて武人に近いんだ。でも自分の武道を持っているガリウスさんや鷲司さんとは違う、野性的で勝つ為なら自分のどんな力も能力も使うタイプ。


「そうだったんですね、俺が最初の対応を間違えたのかな……」


「いや、お主は教える立場として行ったんじゃろ? それなら正解だ、最初から性根を見抜くなんて無理じゃし、何ならそれを叩き潰してしまうなんて無理にも程がある、ワシはその限りでは無いがな」


クフフと笑うティアさん、それから大きく伸びをして立ち上がる。


「そ奴の怪我は半日もあれば治る、それに今は霊泉の水から体内に魔力を取り込んで居る。傷もすぐ治るだろう」


「どこかに行くんですか?」


「あぁ、少しな。それと、定期的に水を変える必要がある、だがお主も忙しかろう戻って来た後は見ておくぞ」


「ありがとうございます!」


飛び上がり龍の姿になる、そしてどこかにとんでいってしまった。


「なんだかんだ言って面倒見が良いんだよなぁ……」


頭を掻きながら細川君の横に腰を下ろす。


「細川君、起きてるでしょ」


眠ったふりをしている細川君へ声をかける、すると瞼がと鼻がひくひく動いた。


「やはりバレてしまいましたか……」


「まぁね、俺とティアさんの話の途中から起きてるの見えたし」


ティアさんも気付いてただろう。


「それで、さっきティアさん言ってた事は本当かい?」


面倒なのでストレートに聞く、決して駆け引きが面倒とかじゃないぞ!


「はい、そうです。俺は上凪さんと同格で戦えたことで調子に乗って……驕り高ぶってました」


「そっかー、どんな風に思ってたか聞いても良い?」


「それ聞くって、鬼ですか……」


心底嫌そうな顔をされる、相当ひどいこと考えてたな。


「えっと……ちゃんとした武術も使えない奴が調子に乗るな、お前なんて身体強化無しじゃ3流の癖にとか思ってました。それと小鳥遊流とかいう弱小武術が威張るなとも……」


おーう……結構言うな……。


「わかった、まぁ確かに俺は武術というよりモンスターを殺す方法を学んでたからね。それに今だに身体強化無しじゃ師匠にも勝てないし……後、最後のは捨て置けないから治ったら全力で相手するよ」


「それ、俺死にません?」


「大丈夫、殺しても3日以内なら蘇生可能だから」


「マジですか……もう何でもアリじゃないですか……」


呆れた顔になり、大きくため息をつく細川君。


「それで、聞きたいんだけど。どうしてそんなに見下してるの?」


新しく生まれた疑問を口にする、すると細川君は逡巡しながらも口を開く。


「実は俺、細川家の実子じゃないんです。生まれも育ちも東京で10歳の頃に細川家に引き取られたんですよ」


「だから、さっきから流暢に喋ってたんだ……」


「はい。それで俺の親父は細川家の長男で、お袋はキャバクラで働いてたんです。それで恋仲になって俺が出来たんですが。その時には親父は細川の家が用意した女性と結婚をしていたんです」


重いな……想定以上に重い……貴族ってどこの世界でもこんな話ばかりだよな……。


「でも、その女性との間には子供が出来なくて。親父が交通事故で死んだのを機に、偶然いた細川の血を継げる俺が本家に引き取られたんです。細川の家は武道を重んじる家で、いきなり現れた俺という存在は他の門下生や流派の連中には目の上のコブだったんですね、良く虐められました」


自虐的に笑う細川君、それからまだ続くらしい。


「幸い、血のお陰か素質があったのか。メキメキ実力を伸ばして同門でも他流試合でも勝てる人は居なくなりましたよ。そして、誰も俺に口を出せなくなりました」


「それで見下す様になったのか……」


「上凪さんとは正反対ですね。力を得て驕り高ぶって、他人を見下し悦に浸る。それでいて格上には媚び諂いながら勝てると踏んだら相手の足元を崩す、最低ですよね」


「そんな事は無いんじゃないなかな? 俺も昔、耀の事で後ろ指差されたり、仲間はずれや揶揄われる事もあったよ、仲良くなっても耀目当てで良いように扱われたりとかね。それに対して嫌な気持ちもあったし、ムカつきもしたよ」


あれは酷かったよなぁ……正直よく耐えれたもんだ。


「じゃあ、何で耐えれたんですか?」


「まぁ、耀が居たし。父さんの『お前が耀ちゃんを見捨てたら彼女は1人になっちまうからな、傍にいてやれよ』って言葉があったからね」


「美人で巨乳の幼馴染が居るとか……勝ち組だろ! あー羨ましい!!」


じたばたは出来ないのでもぞもぞと動く細川君、見ていると血色も良くなってきている。


「細川君には居ないのか?」


「居ませんね……武術やってると怖いとか言われるみたいですよ……」


「マジか……言われた事無いや」


「そりゃ、上凪さんがイケメンだからですよ……あー悔しい……」


大きなため息をつく細川君、霊泉水が減って来たので入れ直しにいくのだった。



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作者です。


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