第46話:情報と噂と裏切り者

「それで、何の情報が欲しいんだ?」


「あぁ、今の聖女の動向と王国反乱軍についてが主でな。後、これは知らないだろうが聖剣の在処を知っていれば教えて欲しい」


「そうだな、今の聖女は魔王領で巡礼してるって言われているが、それは表向きで、裏では新魔王の奴隷として嬲られてるという噂だ。反乱軍は、確かミローズで会議をしていたという噂だ、潜り込んだ貴族が酒の席で笑っていたよ。後聖剣か……あの『抜けるかお試し!』って娯楽くらいだな……そもそも聖剣なんて何でだ?」


「あぁ、今回、旦那様へ依頼した人間が学者でな」


「そういう事か。でもまぁ、そもそもそんな古い剣が残ってるわけ無いからな」


「だよな、その道に詳しい人間も知らないよな?」


「あぁ、知らないなぁ……王立学院ならば知ってそうな奴は良そうだがな」


「だよな、ありがとう」


「そうだ、こんな噂を聞いてるか?」


「ん?」


王都ここでの連続失踪事件だ、色んな人間が失踪してるらしい。噂じゃ魔族の悪い噂を流す為に城の連中がやってるとの噂だよ」


「珍しいな城に非難が向いてるなんて」


「それがな、城に係わる仕事をしていた連中が失踪してるからな、そりゃそんな疑惑も出てくるよ」


「そうなのか」


「あぁ、気をつけろよ。お前も攫われんようにな」


店主とシアはくすくすと笑いながら話は終えた。


――――カランカラン。


「どうだった?」


「聞いてたんでしょ?」


「話はね、でも相手の表情や視線の動きはわから無いからさ」


「そうだね、いつもの感じだったし視線も何時もの通り」


「いつものがわからないんだけど……それって良いの?」


そう聞くとシアは顔を寄せて来る。


「何時もの通り胡散臭い、僕達を騙そうとしてるよ」


「そうか、今日帰るのは無しにしよう」


「良いのか? リリアーナ様やアリシア様、それとセレーネちゃんにどやされないか?」


「大丈夫、特に問題無いよ、後で一旦戻っておくし」


「そっか、すぐ帰って来れるんだもんなぁ、便利で良いなぁ~」


「ははは……」


そんな羨ましそうに言わんでくれ……。



◇◆◇◆◇◆◇◆

「ガハハハッ」「ワハッハッハー」「おーいねぇちゃん、こっちにエールを!」


酒場に入ると、お酒の匂いと男の声が響く。


「いらっしゃいませ~お二人ですか?」


「えぇ、大丈夫ですか?」


「そうですね……今混雑している時間なので、料理の提供に時間がかかってしまいますが。それでもよろしければご案内をいたします」


「えぇ、大丈夫です、シアも大丈夫だろ?」


「はい、旦那様に合わせますので」


「はい、かしこまりました~」


そのまま給仕の女性に中二階の席へ案内される。


「エールを二つ、それと何か美味しい肉料理をお願いします」


「そうですねぇ……シュニッツェルと若鳥のトマト煮ですね、少しお高めで良いならローストした鴨肉がありますよ」


「わかりました、全部1皿づつで」


「かしこまりました~では先にエールをお持ちしますね~」


そう言って給仕さんは降りて行った。


「ご主人様、エールなんて飲むんだ?」


「うん、この世界のワインは酸っぱすぎるからね、それとシアの分はエールにしちゃったけど大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だよ。僕は酔いづらいからね、大体何飲んでも変わらないよ」


「わかった、それじゃあ美味しくなければジュースでも良いか、クロコはジュースでいいな?」


「(コクコクコク)」


影の中から頭だけ出して頷くクロコ、すっかり慣れたのか楽しそうだ。


そしてトットットッと給仕さんがエールを持ってくる。


「お待たせしました~料理の方はもう少しお待ちください」


「はーい、ありがとうございます」「ありがとうございます」


エールをドンッと置くと急いで戻って行く。


「はい、クロコ。俺の世界のジュースだけど我慢してね」


瓶の林檎ジュースをカップに入れてから手渡す、互いにジョッキを打ち合わせ一口飲む。


「普通……」「うーん、普通」「!!(ゴクゴクゴク)」


クロコだけ美味しそうに飲む、俺達は微妙な顔だ。


「不味くは無いんだけどねぇ……」


「そうだね、これどうしたら美味しくなるかな……」


香りも味も至極普通なのだ。


「ま、まぁ目的は別のとこにあるからね」


「そうだな、それでどこいった?」


階下を見ると、目的の旅装を着た男がカウンターにいた。


「あぁ、いたいた」


「私も見つけた、あーあーあんなに飲んじゃって……」


「よっぽど俺達を売った金が良かったんだろうな……」


そう、俺達が即日帰らずにここに残った理由はもう一つあり。シアの同僚たる暗殺者をおびき寄せる為だ。


「でもさ、シアって城の地下で薬と魔術で服従させられてたんだよね?」


「あぁ、仕事のある時に外に出されて、単独または複数で暗殺任務や闘技場で使うモンスターの捕獲などをやっていたよ」


「そうなんだ、たいへんだったね」


「はは、そう言ってくれるのはご主人様達だけだよ」


「それでおにーさんとシアおねーちゃ――」


カチャカチャと恰幅の良い給仕さんが食器の音を鳴らしながら登って来た、それを聞いたクロコは影に潜る。


「はーいお待たせ~っと、あれ?」


もう一人分のジュースの入ったコップを給仕さんが見る。


「あぁ、これは私の地域で行っている風習なんです、アストマリウス(マリアン)様への捧げものとして行う風習なんです」


「へぇ~変わってるね。おっと、料理が冷めちまう。早く食べてくれ」


料理をドンッと置かれ良い匂いが広がった。


「それじゃ、会計はこの札を持ってきてくれ、ごゆっくり」


そう言って番号の書かれた木の札を置いて給仕さんは降りて行った。


「何はともあれ、先ずは食べようか」


「そうだね」「はい!」


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