第19話:辺境伯領へ
翌朝、日も登りきらない内に宿を出発する。老夫婦は名残惜しそうにしていたが夕方までにこの領を越えないといけないと話すと、納得してくれた。
今は街から少し進んだところで、休憩がてら荷台で朝食を食べている。
「うぅ……寒いわね……」
「はっ、くしゅん」
(寒いか、それじゃあ)
「『風よ、わが力を使いこの空間を覆いたまえ――エアドーム』これで寒くなくなるよ」
「はわぁ……あったかいですぅ~ご主人様ぁ~」
「この魔法良いわね……」
「あぁ、火魔法と風魔法の応用で、こう器をひっくり返して、ここに穴を開ける感じで空気の入れ替えをするんだ」
「お兄さん……それ簡単に言うけど、普通の魔法使いじゃ無理よ」
「そんなに?」
「そうね……上級のお二人は出来そうかしら?」
シャリアがレギルとライラに聞く。
「いやぁ、無理でさぁ……流石旦那ですな」
「私も比較的魔法は出来るけど……無理よ、その風で作った器に穴を開けて空気の入れ替えなんて意味あるのかしら?」
ライラが疑問に思ったのか首を傾げる。
「えっとね、これでいいか」
「「「「「!?」」」」」
「なんですかそれ?」
「え? これビニール袋」
「それは袋なの?」
「そうだね、強度はそこまで無いけど、水とか食べ物とかを清潔な状態で短期間保管が出来るよ。ほら、こんな感じに」
ビニール袋に水を入れると。皆、興味津々なのかつんつんとつついたりしてる。
「なんというか……」「触り心地が……」「おっぱいよねぇ~」
「「「「「シャリア(さん)!」」」」」
皆が顔を赤くして言う。
まぁ言いたい事はわかる、なんか似てるよな。
「まぁ、それはおいといて。ライラ、これに空気を入れて口だけで呼吸してみて」
「わかったわ――――すーーはーーすーーはーー」
「苦しかったら止めていいからね」
するとしばらくして顔を真っ赤にしたライラが大きく呼吸する。
「なにこれ……苦しいわ……」
「まぁこれがさっきの魔法で空気穴を開ける理由だよ、新鮮な空気じゃないと苦しくなるじゃん」
「なるほど……かなり難しい魔法ね……」
「なんだろう、二つの風魔法を同時に使うんだ被せる為の魔法と温風を入れる魔法」
「うん、難しい!」
ライラが諦めた様に投げだした。
「つまり、いままで死の洞窟とか言われてたのは空気が入ってないからか……(ブツブツ」
レギルが今の説明を聞いて何かぶつぶつ言っている。
「レギル? どうした?」
「あぁ、旦那、今の説明を聞いて。『死の洞窟』と呼ばれる場所はそういった新鮮な空気が入らないからなのかと思いまして」
「あぁ、そうだね。まぁ二酸化炭素以外にもあるけど、そうだと思うよ」
「ニサンカタンソ? まぁよくわからないですがそうなんですねぇ……」
「まぁ、そういう所は近づかない方が得策だよ」
「ですな」
◇◆◇◆◇◆◇◆
朝食を食べ終え走り出す、村を巡り、途中の道の駅の様な休息所で休みつつ、広大な穀倉地帯を抜ける。
「凄いなぁ……」
「あはは、ここはこの国一の麦の産地でね、この国を支えてるのさぁ」
そして走り続け太陽が沈みかけ星が現れた頃、遂に領関が見えた。
「やっと全行程の約半分かぁ……」
「疲れましたね……」
「一日馬車の中だと体がきついわね」
「お兄さんの回復魔法で身体は楽だけどね」
「お兄様凄いです!」
「ご主人様の魔力が体を巡る度……(ブツブツ」
度々セレーネが恍惚としてるけど、本人に聞いても大丈夫と言ってるしまぁ、魔人族の特徴なんだろうと思ってる。
そんな事を話していると、領関を抜けて走り出す。
「ここからが辺境伯領ですね」
ここから山越えと、大きな川を越える必要がある、工程の中でもかなり過酷な部分だ。
「旦那、今日はもう街に入れないので野宿にしましょう」
「わかった、それじゃあかなり広めの広場か場所があったら休もうか」
それから良さそうな場所を見つけ野宿の準備をする。
(さてと……あんまり使いたくないけど……使うか)
以前、空間収納にしまった優羽の実家を取り出す。
「「「「「!?!?!?!?」」」」」
「だ、だ、だ、旦那ぁ!?」
「もう、何でもありね……」
「ご主人様、凄いです……」
「こんなことに慣れてきた私がおかしいのかしら……」
「お兄様凄いです!!」
ライラ以外唖然としている、まぁ俺もこんな家出てきたらビビるわな。
「さて、皆。掃除しようか……」
まず窓を開けて風魔法で埃を飛ばす、その後畳とか諸々を綺麗に復元していく。
「ガスは通ってる、電気と水道は無理だよねぇ……」
(まぁ魔道具で何とかなる部分は何とかするし良いか)
そして中に入る時に靴を脱いで入って貰う。
「凄い……これが異世界の家ですか……」
「これがユウキの世界の家……」
「あはは~綺麗~」
「夢でも見てるんか?」
「えぇ……凄い……」
「あの? ご主人様、これは?」
中を見て回っていたセレーネがどこから見つけて来たのか大人の玩具を持っていた。
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