第67話:上凪 優羽<かみなぎ ゆわ>

とあることを決意した次の日、俺は異世界のダンジョンへ来ていた。


「よし、これで大丈夫っと……」


ダンジョンの内部にポートを置いて隠す、これでいたずらはされないだろう。


「さてそれじゃあ、やるか」


彼女を迎えに行こう。


◇◆◇◆◇◆◇◆

「すみません、上凪です」


「あぁ、君か。彼女、朝の検診では大分改善されているのが見られたよ、何かしたのかい?」


「えぇ、彼女の身の上話を話してくれました」


「そうか……それで今日は何を?」


「ウチの奥さん達とも仲が良さそうですし、もう引き取ってしまおうかと思いまして、来月にはクリスマスとかのイベントもありますし」


そう言うと先生はにこにこと笑いOKを出してくれた。ただ週1回、経過観察で彼女を交えた面談をすることになった。


「それじゃあ、手配しよう」


「ありがとうございます」


◇◆◇◆◇◆◇◆

それから優羽と合流して車に乗る。


「今日はどうしたんですか?」


「急にごめんね、でもこれをやらないと、君に報告が出来ないから」


「???」


優羽は不思議そうに首を傾げる。


「そうだ、今日は何か食べたいものはあるかい?」


「ハンバーグ……それと唐揚げ」


「あはは、欲張りだね」


「うぅ……」


顔を赤くして黙ってしまう。


「さて、少し時間がかかるから寝てると良いよ」


横にして膝枕をする、そして撫でていると寝息が聞こえ始める。


「さて、唐揚げとハンバーグか……」


スマホの家族グループに今日の夕飯は優羽の希望でハンバーグと唐揚げが良いと伝えると耀と春華からOKのスタンプが飛んできた。


そうして景色を眺めて1時間程経った頃、目的の場所へ到着した。


「さあ、起きて」


揺り動かすと優羽の目が覚め顔を上げる。


「おはようございます?」


「あはは、流石にまだお昼だよ、それじゃあ降りて用事を済ませよう」


そういって優羽と共に降りる、門構えを見た優羽の調子が悪くなるといった事があった、回復魔法をかけながら背中をさすると、しばらくして落ち着いた様だ。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「大丈夫、落ち着いて、今日は君をここに戻しに来たんじゃないから」


そう言うと不思議そうな顔をしていた。


「さて……」


インターホンを鳴らすが反応が無い、居留守を使って様だ。


何度か鳴らして反応が無いので、仕方なくドアを蹴破る。


家の奥に扉が刺さるが気にしないで上がる。


魔力反応からこの部屋に居るのは間違いなさそう。


同じ様に扉を破り中を見ると、金髪で汚れてよれよれになったスウェットを着た男が居た。


(こんな奴から、優羽が生まれたと思うと驚きだ)


「なんだてめぇ!!」


驚きの顔もそこそこにクズが叫ぶ。


「てめぇがこの子の父親ですか?」


怒りを隠しながらにこやかに問いかけると、クズが優羽を見る。


「クソガキが!! 今までどこに居た!!」


「ひぃ……」


緩慢な動きで優羽に掴みかかろうとするので手首を掴んで止める。


「何してるんだてめぇ……」


ぎろりと凄むがちっとも怖くない、寧ろ滑稽さが出てくる。


「そんなのはどうでもいいんだよ、質問してるのはこっち側だ」


逆に凄んで聞き返すと、小さく「ひっ」と鳴いて引き下がる。


「そうだよ!! だから何だ!!」


「わかった、この子を買い取らせてもらうよ」


空間収納アイテムボックスから1億円の束を10個ほど出して並べる。


「ここに10億ある、手切れ金だ」


お金を見た瞬間、醜悪な顔がさらに気色悪く歪む。


「ははは!!! そんな薄汚ねぇガキにか!? お前もそのガキの身体を味わった口か!!」


(あぁ…………殺したい……)


殺意を抑えながら、書類とペンを出す。


「どうでもいい、その額で良いなら書類にサインしろ」


「いいぜ!! そんな股で稼ぐしか能の無い! 性病まみれの腐った肉〇器が欲しいならくれてやるよ!!」


「よし、それじゃあお前は用済みだ」


喜びながらサインを終えた瞬間、クズと共に転移した、突然と変わった風景にクズが狼狽する。


「なっ!? ここはどこだ!?」


「あぁ……あの子の前だったから抑えてたけどもう限界だ」


剣を取り出し四肢を両断する。


「ぎゃああああああああ!!」


ゴロゴロと転げまわり呻きまわる、五月蠅いから治すか。


「『——ヒール』お前さ、自分の子供にそんなことさせてなんとも思わないのか?」


「知るか!! そんなことよりてめぇ! ただじゃおかねえぞ!!」


「知るか」


今度は蹴り飛ばして壁に叩きつける。


「今のお前には2つ選択肢がある。あの子に謝るか、ここで死ぬか」


「なっ! ふざけんじゃねぇ!! ぶっ殺す!!」


落ちていた錆びた剣を持ち上げ斬りかかって来る……走るの遅いな。


「はぁ……もういいや」


バラバラにして火魔法と風魔法で燃やし尽くす。


「さて戻らないと……時間かかっちゃったな……」


転移で戻ると、優羽が驚いた顔をしていた。


「ただいま」


そう言って、腰の抜けた優羽を抱っこする。


「そうだ、この家には必要な物とかあるかい?」


空間収納にお金をしまって問いかける。


「無いです……お母さんとの思い出も捨てられちゃいましたし」


「そうか……」


(それじゃあ家ごとしまっちゃうか)


空間収納に家ごと収納する。


「それじゃあ行こうか、優羽」


そう言って車に乗る、すると優羽が声を掛けてきた。


「優羽って……私の事ですか?」


「そう、上凪 優羽。君の新しい名前だ」


そう言って笑いかけると、驚いた顔で「優羽……優羽……」と繰り返していた。


「気に入った?」


「はい、ありがとうございます!」


そう言うと優羽は、初めて万遍の笑みを見せてくれたのであった。


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あとがき

作者です。

すみません、昨日は少し気が滅入ってたのですが、皆さんに物語を届けるのが私に出来る事だと思いましたので、頑張ります!


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