|幕間|①:元テロリストの彼は新たな地獄を見る
◇キランside◇
僕がテロリストから解放されてから約一年、今日は僕を救ってくれた恩人との面談の日だ。
「やぁ、キラン。元気だった?」
「はい、お陰で元気に過ごせています」
「日本語も上手くなったね」
「はい、でもまだ慣れて無い事が多いです」
「まぁ向こうの世界の公用語は日本語だから、使ってれば慣れるよ」
そう言いながら彼は笑う。
元々孤児院(日本だと児童養護施設と言うらしい)から売られ、テロリストに薬漬けにされた恩人だ。
それに今は住むところや仕事、学業まで支えてくれる尊敬すべき人だ。
「それで、向うの世界で働く場所の目途が立ったから、迎えに来たんだ」
「わかりました。いつ頃、出発になります?」
そう聞くと彼は苦笑いをして言った「今から」だと。
「本当ですか?」
「うん、それで荷物とかは?」
少年刑務所内を歩きながら彼は聞いてくる。
「部屋の中に少しあるだけです」
「じゃあサクッとやっちゃおうか」
彼は部屋に行くと、僕の荷物を手品の様に仕舞ってしまった。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
そうして僕は振り返ると一年の間お世話になった部屋へ一礼する。
「ありがとうございました」
そうして顔を上げると、目の前には広大な緑地が広がっていた。
「すごい……」
「今は食料改善で小麦も安定して供給出来てるし、機械は導入してないけどこの世界の人は身体強化で収穫してるからね。正直機械並みだよ……」
そう言って彼は僕の前を歩く。
「それで、僕の仕事は何になるんですか?」
「あぁ、まだ言ってなかったね」
そう言って彼は何もない空間から、教科書やスーツを取り出す。
「キランには英語の授業とゆうか【ALT(外国語指導助手)】を担当してもらいたいんだ、一応この世界の公用語は日本語だけど。向うの世界で働く場合や教育水準を合わせるのに必要だからね。はいこれスーツと教科書」
そう言って彼は、教科書とスーツを手渡してくる。
「わかりました、精一杯頑張ります!」
「あはは、そんなに肩肘張らなくて良いよ」
「それと、普通の授業にも出てもらって高校卒業程度の学力を手に入れてもらうつもり。後はこの世界で生きる為に戦闘指導も受けてもらうよ」
「戦闘指導ですか?」
「うん、基本的にはオークを一人で倒せる位にはなって貰いたいんだ、生徒を守る為に」
そう言って彼は僕の肩に手を置いた。
「それじゃあ指導教諭の元へ行こうか」
「はい!」
一瞬で景色が変わり、気が付くと目の前に学校があった、本当に凄い能力だ。
「おーい、ティアさーん」
彼がそう呼ぶと、上空から物凄い勢いでドラゴンが降りてきた。
それからその巨体が光ると、翼と尻尾の生えた少女の姿になっていた。
「なんじゃ、そのひょろっちいのが新しい
何か今おもちゃと聞こえたんだけど、聞き間違いかな。
「あはは、簡単で良いんでオークを1人で倒せる位になるまで鍛えて貰えば……」
「なーにを言っておる! 妾が鍛えるのだぞ? オーガ位一人で倒せるまでにしてやるわ!」
「オーガって……」
僕でも聞いた事がある位の凄く強いモンスターだ……
「なんじゃ小僧。お主、文句があるのか?」
少女の目がすっと細められる、それと共に凄い重圧がかかる。
「うっぷ……」
「ああ、もうティアさん駄目ですって。向こうの世界の人はティアさんの圧に慣れてないんですから!『——
「そうじゃった、お主の周りの人間は全員ケロッとしてるからのう、加減を間違えたわ……まぁ良い、お主妾と闘え」
「え? ええぇぇぇぇ!?」
「ティアさん!」
「言うな言うな、妾からは攻撃せん。こやつの実力を見る為だ」
「わかりました……じゃあ5分だけですよ」
そう言うと彼は引き下がった、もっと抗議しても良いのに……
「キアン、悪いんだけどティアさんと闘ってくれるかい? 銃は……効かないから、ナイフか剣になるんだけど……」
彼は少し申し訳なさそうに言うが、止めるつもりは無いらしい。
「わかりました、ではナイフで……」
どこからともなく出したナイフを手渡して離れていく彼、僕はナイフを構え少女へ斬りかかる。
「はああぁぁぁ!!」
刑務所にいる間も体力づくりや戦闘術は衰えない様にしていたが、全盛期より少し劣っている為、鋭さが落ちている。
(でもこれなら! 一撃は余裕に入る!)
刃先が少女に当たる瞬間、僕は仰向けになり少女を見上げていた。
「は?」
「なんじゃ、弱いのぅ……」
欠伸をしながら少女は言う。
「ほれほれ、早く起きんか! いつまで寝てる!」
そう言われ跳ねる様に起き上がり、再度構えに入る。
それからしばらくの間、ひたすらに転がされ5分経った頃には汗だくになり肩で息をしていた。
「うむ、お主の世界の小童よりは強いのぅ」
途中で出した扇子で扇ぎながら少女は言う。
「まぁ、一応軍人みたいなものだったからね、彼は」
「そうか……ならもう少し激し目でも良かったか……」
なにやらぞっとする様な事を言われてしまった。
「駄目ですからね、無理は」
「わかっておるわ」
「それじゃあ、キアン。これから半月この人に鍛えて貰ってね」
「え゛……」
今まで聖人に見えていた彼が、地獄の裁判官の様な一言を発した。
「あぁ、後これ毎日飲んでね。体力が回復するから」
そう言って大量の液体の入った瓶を並べる彼。
「わかりました、ありがとうございます」
そうこうしてる合間に彼のスマホに着信が入った。
「あぁ、わかった今からそっち行くよ。じゃあゴメンキアン、用事が入った。後はティアさんに教えて貰って」
「え゛……」
「あい分かった、ほれ行くぞ小僧」
そう言って途轍もない力で僕は引っ張られて行った。
(あぁ……僕は一体どうなるのでしょうか……)
遠い空に願いながら、僕は神に祈った。
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あとがき
作者です。
今回はテロリストの彼のお話です、この後彼は学校の教師として働き優希の
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