第46話:因縁にけりをつけよう・下

ヒールをかけて落ち着いた綴さんが「付いて来て」と言って先を歩いて行くと、ドラマでよく見る規制線の黄色いテープが張られた場所が見えてきた。


「お待たせしました、ダンジョン管理機構から来た綴 縫衣です」


「こんにちは、探索者の上凪 優希です」


「ありがとう、ございます私、公安の佐益さえきです、この度は英雄上凪さんに会えて光栄です」


目をキラキラさせながら挨拶をしてくる佐益さん、それに対して呆れたように咳払いをして話を進める綴さん。


「被疑者は?」


「はっ! すっ、すみません、まだ倉庫内で立て籠ってます」


倉庫を指さすと警察車両と武装した機動隊員に囲われた倉庫があった。


「昨晩からあの様子で立て籠もってまして……」


「人質とかは居ますか?」


「大丈夫です、連れ込まれた人が居ないのは確認済みです」


「わかりました、じゃあ早速倒してきますね、生死に関しては?」


「出来れば生かしていただけたらかと思いますが……そこは上凪さんとの因縁がありますので……今回は目を瞑るとの事です」


「わかりました、いい加減この下らない因縁にけりを付けますか……」


全身に身体強化を施して扉を開ける、中を見ると薄暗い倉庫内は荒れていた


『――探知』発動してみると……待ち構えてるよ、面倒だなぁ……煽ってみるか。


「おーい、負け犬の久墨くーん出ておいでー」


こうかはばつぐんだ!という感じに飛び出してくる久墨。


涎を垂らし醜いモンスターの腕と足を義手にした姿で出てくる、何か頭にもケーブルついてるな……


「うわぁ……イケメンが見る影もないや……」


「黙れ黙れ黙れぇ! 俺は力を得た! 今ならお前を簡単にひねりつぶせるんだよ!」


涎をまき散らしながら、近くにあった事務机を握りつぶし投げつけてくる。


「それで強くなったねぇ……ウチの春華のが万倍強いんだけど」


飛んできた机を蹴り飛ばすと、久墨は驚いた顔をしている。


「なぁ、お前。どこで認識が止まってるんだ? 小学校の時みたいにそれも、まぐれでやれてた俺じゃないぞ?」


「五月蠅い五月蠅いうるさああああああああああああああああああああいい」


腕をぶんぶんと振り回し、モンスターの咆哮の様に叫ぶ、いや姿形はもうモンスターか……


距離を取って観察していると、元々あった腕はモンスターに改造され、脚部も人間の足の様になっている。そして中々攻撃が当たらないのか、段々と苛立っているように見えた。


「まぁ、見た目だけじゃわからないからなぁ、来いよ……」


空間収納アイテムボックスから刀を取り出す。


「ぼわあああぁぁぁぁあああああぁぁ!!!!!!」


まるで身体強化した様な速度で迫る久墨の攻撃を躱し蹴りつける、そうして勢いそのままに倉庫の扉に叩きつける。


「俺がこんな奴に負ける訳ないだろおおおおおおおお」


「いい加減気付けよ…お前と俺じゃ実力差がありすぎるんだよ」


鞘から抜き魔力を纏わせる、さっさと済ませるか。


「——幻刀」


陽炎の様に揺らめかせた魔力の刀身で同時に両手両足を切り落とす。


「ぎゃあああああああああ」


「お前こんなに弱いのかよ……」


「ふざけるなよ……クソがぁ……」


腕同士が繋がろうとしてる? なんだコイツ……再生能力でもあるのか?


「気持ち悪いし、そろそろ死んでもらうか……」


そう俺が呟くと、顔を青ざめさせた久墨は未だ生えてない手足でずりずりと床を這う。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、死にたくない死にたくない死にたくない……」


遂には涙と小便を漏らしながらもぞもぞと蠢く。


「そう言えば……メアリーの事切りつけたよね……あれ俺、滅茶苦茶ムカついたんだよ……」


抜き身の刀を、だらりと下げ侮蔑を込めた視線を送る。


「そんな事は知らん!あの雌豚が俺の完璧な作戦を! そうだ! ここから逃げて耀も他の女も俺がぐちゃぐちゃにして――――」


「もういい黙れ――」


首を切り落とし物理的に黙らせ、心臓を一突きする、その瞬間ゴリっと何かを破壊する手応えがあったけどまさか魔石? 人間に移植したのか……


「この事は綴さんに報告かな……」


血払いをして刀を収める、流石に死体は動かない様だ。


その後遺体を佐益さんに確認してもらい、その場で燃やし尽くし。綴さんと家まで転移してこの騒動は終わりを告げた。



◇◆◇◆◇◆◇◆

久墨の脱走事件から翌日、俺は久墨の爺さんの収監されている拘置所を訪れていた。


「やあ爺さん」


「なんじゃ……貴様……」


「いやー爺さんにプレゼントがあってな……」


机の上に久墨の骨を砕いたものを詰めたビンを乗せる。


「なんじゃこれは……」


「お前の孫の骨」


「!?、貴様!」


怒り狂い胸ぐらをつかんでくる、慌てて詰め寄ろうとする警察官を止める。


「どうしてだ!どうして孫の命を奪った!?」


「いやいや、久墨が自分で脱走して暴れた結果だよ」


「———っつ!」


その場にへたり込み頭を床に打ちうつけ始める


「うひひひひひひ」


「死なれても困るし……ヒール」


散々打ち付けて動きが遅くなってきたところをヒールで回復させる。


「何故!何故しなせてくれえええええええ」


「いやいや、死なせるわけないでしょ……」


「にゃぜえええええええええ」


「お前が、俺に、喧嘩売ったからだろ……」


「わしゃわるくない!!わりゅくないんじゃあああああ」


白目を剥き泡を吹きながら気絶した。


翌日警察から電話があり久墨の爺さんの訃報が俺の元に届いた。


その最後は久墨の遺灰を飲もうとして喉に詰まらせて死んだらしい。


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