てんしの子守唄

旅人

プロローグ

何気なく寝転んだその場所は、運良く柔らかい草原だった。

サァと緩い風が吹き、草が優しく歌った。

ああ、また誰かが地上に産まれたのか。

ふわりと一枚の小さな花びらが目の前を飛んでいった。それに少しだけ手を振る。

「いってらっしゃい」

ぽつり、一人呟いてみる。

少しその花びらを目で追っていると、どこかで見失ったのか、スッと消えてしまった。

「…地上、かあ」

少量の羨望の意を込めて声に出した。

ちらり、と視界の端にふわふわと浮かぶ黄色い光のかたまりが映る。

「またここにいたんですね」

ホワホワとにわかに点滅しながら、黄色い光のかたまりは話しかけてくる。

「そう、暇だから」

そう答えると、黄色い光のかたまりは、幾許か間を空けて、

「…神殿の方に、一人、見えました」

と言った。

「わかった。案内して」

そう言い、私はゆっくり起き上がった。


黄色い光のかたまりは、背の高い草に囲まれながら、落ちては飛び、落ちては飛び、を空中で繰り返し、足早に移動していく。まるで綿毛に意志があるみたいだ。

「ところで、神殿ってどこだっけ」

「こっちです」

素っ気なく答え、黄色い光のかたまりはさっさと先に行ってしまった。

あれはいつもそうだ。でも今回はいつにも増して素っ気ない。

案内されるがままに着いていくと、草や土ばかりの道が、だんだんと白いタイル張りの道に変わっていき、乱立していた木達が整然と並んでいった。その白い路の先に目をやると、ほのかにもう一つ、黄色い光のかたまりらしきものがいるのが見えた。私はその光の元に駆け寄った。

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