ねこねこ仔猫なお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

第1話 仔猫を探して

 学校の帰り道。


 どこからともなく、仔猫の鳴き声が聞こえた。


 それも、必死に助けを求めるような鳴き声。


 猫が大好きなぼくは、可哀想な猫を放っておくことが出来なかった。


 仔猫の声を頼りに、仔猫の居場所を探す。


 声が聞こえてくるのは、ベンチしかない公園。


 子供が怪我をしたという理由で、遊具がひとつもなくなった。


 晴れた日は、たくさんの子供たちがボール遊びをしている。


 今日は、雨が降っているから、誰もいない。


 晴れていたら、元気な子供たちの声にかき消されて、聞こえなかっただろう。


 捨て猫なら、地面にダンボール箱が置かれているかもしれない。


 親猫とはぐれた仔猫なら、茂みの中にいるかもしれない。


 冷たい雨に打たれて、きっと弱っているだろう。


 早く見つけて、温めてあげないと。


 しかし、声はすれども姿は見えず。


 いったい、仔猫はどこにいるのだろう?


 一旦、探すのをやめて、もう一度、耳を澄ませてみる。


 鳴き声は近いから、このあたりで間違いないはずなんだけど。


 足元には、それらしきものは見えない。


 上?


 視線を上げると、大きな木の上に仔猫が必死にしがみついていた。


 全身真っ白で、ちっちゃくって、めちゃくちゃ可愛い。  


 猫は、高いところが好きなんだよね。


 きっとこの子も、頑張って登ったまでは良かったんだけど、思ったより高いところまで登っちゃって、降りれなくなったんだろう。


 仔猫あるある。


 可哀想だから、早く助けてあげなくちゃ。


 背負っていたカバンを投げ出して、木を登り始める。


 ぼく、木登りは得意なんだよね。


 大きな桜の木は太くて、大きく枝分かれしているから、登りやすい。


 あっという間に、仔猫がしがみついている枝まで手が届いた。


「助けに来たよ。ほら、おいで」


 ぼくが手を伸ばすと、仔猫はプルプル震えながら、枝の上を歩いて少しずつ近付いて来る。


 無理に捕まえると、パニックになって暴れるから、向こうから来てくれるのを待つ。


「そうそう、良い子だね。あともうちょっと」 


 辛抱強く待っていると、ようやく、ぼくの手の上に仔猫が乗ってくれた。


 やった!


 生後一ヶ月くらいの手のひらサイズで、めっちゃ可愛い。


「よしよし、良く頑張ったね。えらいえらい」


 あとは降りるだけと、思った瞬間。


 足場にしていた枝が、音を立てて折れた。


「え」


 落ちる。


 慌てて、目の前の枝に手を伸ばすも、届かない。


 せめて仔猫だけは守ろうと、胸に抱いた。


 もう一度、何かが折れる音が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る