第72話 都市伝説のメリーさん、チラリズムを極める。

「あたしメリーさん。今日は泡に沈まないように天井に張りついて」ひゅーぽちゃん「ゴボゴボゴボ」


「そう簡単に天井に張りつけないよね。そして残念なことに今日は口裂け女さん来てないよ」


 メリーさんからの電話に出ると、メリーさんは天井に忍者みたいに張りついて出現して、うまく張りついていられなくて落下して、風呂に沈んだ。




「ヌクトはチラリズムにデレデレする変態のサルヤローなの。このままじゃ口裂け女に簡単に奪われちゃうの」


「メリーさん的に僕ってメリーさんのものなの?」


 湯船にメリーさんと二人、肩まで浸かる。

 僕のツッコミに対して、メリーさんはんんっと咳払いをして、着ぐるみパジャマのフードをいじった。


「と、とにかくなの。よその適当な怪異に奪われていいようにされるくらいなら、あたしがしっかりヌクトの心を引きつけておくの。

 これはヌクトに余計な危険がおよばないようにする心配りであってあたしがヌクトを独り占めしたいとかそんなものでは断じてないの絶対違うの勘違いダメゼッタイなの」


「まあ、そういうことにしとくけど。

 それでメリーさん、僕の心を引きつけておくために何をしてくれるの?」


「チラリズムを極めるの」


「チラリズムを極める」


 メリーさんは無表情をちょっと赤らめながら、もじもじと体をくねらせてポーズを作っていった。


「見せてやるの……これがあたしの全力全開の、チラリズムなの……

 う、うっふーん、なの」


「わーお」


 メリーさんのポーズ。

 それは着ぐるみパジャマの足のすそをたくし上げ、足首を見せるというとっても高度なチラリズムであった。

 湯船の水面のゆらめきに合わせて、素肌の足首が幻想的にゆらめく。

 メリーさんは赤らめた無表情でドヤった。


「どうよなの。今の服は布面積が多いから、体じゅうどこでもチラリズムし放題なの。

 これぞ奥義『布面積が多い方が見えたときの喜びが大きい理論』なの」


「合ってるような合ってないような」


「まだまだいくの。う、うっふーん、なの」


「わーお」


 今度は手首。

 水面より上に左手を持ち上げてまっすぐ伸ばして、右手でそでを引いて、手首を露出させた。

 そで口からお湯がだばだばとしたたる中で、内側を上に向けて差し出される手首の白さがまぶしい。


「ふふんなの。あたしのせくしーな連続チラリズムに、ヌクトの目は釘付けなの。イチコロなの」


「うんうん、とってもセクシーでクラクラするよ」


「ふ、ふふんなの。ヌクトをそうやって悩殺できたのなら、えっと、計画通りであたしの知性による完璧な作戦勝ちって感じなの。ドヤァなの」


 メリーさん、ほめるとわかりやすくキョドって照れるよね。かわいいね。

 メリーさんはさらに次のポーズに移った。猫耳つきのフードに指をかけて。


「さらなるチラリズムで、ヌクトをもっと骨抜きにしてやるの。うっふーんなの」


「わーお」


 メリーさんはフードの横を髪ごと指で引っ張って、耳と首筋を露出させた。

 普段から髪の毛であんまり見えてない耳、多少簡略化された人形らしい作りをしててかわいいね。

 首筋もパジャマの白い布地との対比で肌色が健康的でまぶしいね。人形の肌に健康的も何もないかもしれないけど。


「どうなのヌクト。メロメロになったの」


「うんすごくメロメロだよ。さすがだなーメリーさんは魅力的だなー」


「ふ、ふふん。そんなにほめられても温泉まんじゅうとチキンナゲットくらいしか出ないの。

 でもヌクトがそんなに喜んでくれるなら、もっといろいろ見せてやらないこともないの」


「わーい楽しみだなー。次はどんなチラリズムを見せてくれるのかなー」


「次は……あれ、次……次って……なの」


 メリーさんの調子に合わせておだてていたら、なんかメリーさんがあせり出した。

 体じゅうをわたわた、ぺたぺた、触ってさぐってる。


「ど、どうしようなの。着ぐるみパジャマって全体がつながってるから、チラリする場所の選択肢が多くないの。

 手首足首とフード周り、それくらいしかなくてもうネタがないの」


「全然体じゅうどこでもチラリズムし放題じゃなかったね」


 メリーさんは無表情をがくぜんとさせてわなないてる。


「ど、どうするの、ヌクトに期待されてるの、ここでチラリズムを披露できなかったらヌクトに失望されるの、そうしたらヌクトが他の怪異に心変わりしちゃうの大変なのなんとかしなきゃなの」


「いやメリーさん、僕そんなことで心変わりしたりしないからそんな心配しなくていいよ?」


 なぐさめるけど聞こえてない様子で、メリーさんは独り言を続けた。


「今披露できるさらなるチラリズム……もうこれしかないの……それにこれならさっきまで以上のセクシーさを演出できるの……」


 メリーさんは胸元に手をやった。

 着ぐるみパジャマを脱ぎ着するために縦に開く構造の胸元、そこを留めているスナップボタンに。


「これを外せばさらなるチラリズムができるの……大丈夫なのやってやるのあたし今このパジャマの下はパンツ以外何も着てないけどチラリするだけだからなんの問題もないのやってやるの大丈夫なの見せてやるの」


「あのーメリーさん、そこまで体を張らなくていいよ?

 僕はただメリーさんががんばったり恥ずかしがったりしてるのをほほえましく見てただけでメリーさんのセクシーさ自体にはそこまで期待してないというか」


「そこまではっきり魅力がないって言われるとムカつくの」


「目にシャンプーがーッ!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。


「……うーん、セクシーさに期待しないとは言ったけど、メリーさんに魅力がないとは言ってないんだけどなー」


 メリーさんかわいいもん。

 まあ、それを伝える機会はこれからもあるし、なんなら普通に言ってる気がするし、気にすることもないかな。

 今日もメリーさんはかわいかったです、ということで。






「めめめめメリーちゃんのチラリズムを堪能できる会場はここですかぁ!?

 はぅあぅかわいいメリーちゃんのチラリズムなんてっ、そんなハレンチなもの見ちゃったらぁ、妄想で頭がテケテケしちゃうよぅ〜!」


「もう終わったし多分テケテケさんがいるところじゃやらないんじゃないかなあ」

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