第2話 タワシ襲来

「うわぁっ!?」


 一瞬、吸い込まれるように身体が宙に浮き、二瞬目には放り出されるように床にぶつかった。

 上のほうから、カランコロンと澄んだベルの音が鳴る。


「いててて……」


 うつ伏せに倒れたオレは、手と膝をついて起き上がろうとした。けど、あれ? 膝が上手く床に着かなくて、起き上がれねぇ?

 そうこうしているうちに、目の前になにやら影が……。


「お客様だあ」


「お客様だあ」


「いらっしゃいませえ」


「いらっしゃいませえ」


 現れたのは、薄茶色の米俵こめだわら、いや、巨大なタワシ!?

 十個ほどが、スーパーの安売り商品みたいに積み重なっている。つぶらな黒い目もついていて、それが全部、オレを見つめている。


「ガァアッ!?」


 なんだ、こいつら? でっかいタワシが、オレを押し潰す気か!?

 慌てて飛び起き、あとずさる。背後にはこれまた巨大な緑色の扉があった。その扉に両手をついて、押し開けようとした。

 目を疑ってしまう。伸ばした自分の手は、ヒトの五本指じゃなくて、黒い羽がついていた。


「はぁっ! なんだよこれ!? なんでオレ、この姿に戻ってんだ!?」


 自分の姿に今、気がついた。腕は翼になっている。足は細くてうろこがついている。顔にはクチバシがある。体は羽に覆われていて、あっでも、なぜかいつも着ているファー付きのジャケットは小さくなって羽織っている。しかもなぜか人の言葉でしゃべれてる。

 もとの姿に戻った記憶なんかないし、姿が変わる時のけっこうな痛みもない。

 一体全体、なにがどうなってんだ!?


「驚いてるみたいだあ」


「びっくりさせちゃったかなあ」


「怖がらなくていいですよお」


「急に話しかけてごめんなさいねえ」


「初めて見るカラスのお客様だからねえ」


「うれしくて、みんなで声をかけたんですよお」


 後ろから、タワシたちがハスキーボイスで話しかけてくる。

 オレはその場で足をトコトコして、体の向きを反転させた。

 タワシたちはてっぺんのやつから順に、床へ降りているところだった。それぞれに四つの黒い足が生えている。白いエプロンも身につけている。眠たくなるほど穏やかな顔をしていて、どうやら襲ってくる気配はなさそうだが。


「あ――」


 と思っていたら、一個が足を滑らせて、山の上からオレの頭上へ……。


「わああ、落ちるうー」


「わああー」


「わああー」


「ガアアーーーッ!?」


 オレがヒトサイズだったら、モフッと受け止めるだけで済んだだろう。だが、鳥サイズの今のオレにとっては、モフモフどころじゃねぇ落下物だった。

 それからのことは、よく覚えていない。

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