気乗りしなかった浮気調査

タヌキング

浮気調査

俺は探偵。今回の浮気調査は気乗りしない仕事だったが、もう終わってしまったので、あとは金を払って貰えば文句ない。

電話で調査が終わったと言って、俺は依頼者の女を呼び出した。


「こんにちは。」


我が探偵社の入口のドアが開いて、無愛想で黒縁メガネの髪を後ろで束ねた、年齢28歳の女がツカツカと中に入ってきた。相変わらずの黒いスーツ姿なので、何処ぞ会社にでも勤めているのだろう。

まぁ、依頼者のことをあまり詮索するのは良くないな。早く調査報告をしてしまおう。


小汚い探偵社の中で、唯一キレイにしているテーブルとソファーに女を案内し、テーブルをはさんで向かい合うように俺たちはソファーに座った。


「それで結果の方は?」


女の眼鏡の奥の瞳がギラリと光り、一瞬食べられるんじゃないかと身構えたが、そんなことはあるわけないと自分を鼓舞し、俺は女に見えるように1枚の写真をテーブルの上に置いた。

そこには筋骨隆々体にピチピチの黒いシャツを着た男と、胸元が見えるピンクの派手派手なドレスを着た、如何にもキャバ嬢といった外見の巨乳女が仲良く手を繋いでラブホテルに入るところが写し出されていた。

ホテルの前で結構待たされたが、あまりに無警戒で堂々とした二人に呆れながら楽に写真は撮れたよ。

その写真を手に取り、わなわなと怒りで震えだす女。両手に力が入っているのか、写真がクシャクシャになってしまっている。


「他のは写真のSDカードと一緒にこの封筒に入ってますが、ご覧になりますか?」


「…いいえ、家でゆっくり見ます。」


「…そうですか。」


俺は封筒を女に手渡す、すると女はお金の入った茶封筒を机の上にボンッと置いた。一応封筒の中は確認したが、ちゃんと依頼料は入っており、これで気が乗らない仕事の全てが完了したと思うと肩の荷が下りた。


「あの男、許さない。」


ポツリと呟く依頼者の女。もう震えは収まっているが、その目は、まるで殺し屋のように鋭く恐ろしい。

そしてこのあと、女の口から俺が気乗りしなかった理由が語られた。


「私と…そして奥さんというものがありながら。」


そうなのだ。この女は男の不倫相手であり。男の奥さんは別にいる。要するにピチT男は三股をしており、この女も男に奥さんが居ることを了承して付き合っていたのだ。言うなればこの女も被害者というより加害者である。

不倫相手からの浮気調査なんて、俺が気乗りしないわけも分かるだろう?

ここで俺は知的好奇心を満たすためだけに女に質問した。


「あの、つかぬことを聞きますが、何で浮気調査なんてしたんですか?ご自分も不倫なさってるのに。」


女は最初は嫌な顔をしたが、そこからふっーと溜息を一つついてから話し始めた。


「そりゃ、許せなかったからよ。私は節度を守って不倫してるのに、この男は更に浮気を繰り返して節操が無いじゃない。奥さんにも悪いから私が天誅を下してやろうと思ったの。」


不倫にもルールがあるのだろうか?その辺は詳しくないが、おそらくルールなんてものは女が考えた勝手なものであり、自分のやっていることを少しでも正当化しようとする自己満足からきたものだろう。


「この写真を手紙を添えて奥さんに送り付けて、それで私の復讐は完了よ。面倒事はごめんだから、私は海外に高跳びするわ、ちょうど株で大儲けして纏った金が出来たから、シンガポールに家を買って、そこで生活するの。今から楽しみ♪」


先程とは打って変わって、ニコニコと笑う女。本当に女は恐ろしい。

探偵業は自分の天職と思うが、こんな変な調査は二度と御免である。

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