第17話 このヒーローは危険

「え、え、ネイビーブルー、その人……校長先生ですか!?」


 細身のネイビーブルーが大きな校長を軽々抱える姿はなんというか『熊狩り』のように見えた。もちろん優花は本物の『熊狩り』を見たことなどないが。


「はい! 不意をついて倒しました。どう? 幻獣消えた?」


 このヒーローは危険だ、とミルキーピンクは無意識に一歩下がった。


「き、消えてませんよ。っていうか校長先生、無事ですよね? ネイビーブルー、なにしたんですか?」


 ネイビーブルーはミルキーピンクの問いには答えずに「えー、なんでだろうねえ」と4年3組の教室の中をベトベトと汚しながら這う幻獣を見つめた。


「ね、校長? なんで幻獣消えないの? ね、おーい。寝てないで教えなさーい」


 いや、この人たぶん無関係だ、とミルキーピンクはすでに気がついていた。言っても校長が黒幕だと思い込んでいるネイビーブルーは聞かないだろうけど。


 そんなちょうどいいところで「なにしてるんだカサ!?」という声がしてミルキーピンクは「ああ、よかった」とつくづく思った。ムカデが出てきて「よかった」なんで思うことが人生であるとは思わなかった。


「ネイビーブルー、やめるカサ! その人は無関係カサ!」


 ムカデの声にネイビーブルーは「え、うそ。やば」とすぐさま飛び退いた。


「とにかく今は幻獣サンショウウオームを倒すんだカサ! サンショウウオームは脇に捕らえたこどもから『げんきエキス』を吸い取るんだカサ!」


 な、なんですって!?


「ムカデさん、『げんきエキス』って?」

 ミルキーピンクが訊ねる。


「運動を『楽しい!』と思える気持ちカサ! エキスを取られたこどもは『外で遊ばない子』になってしまうんだカサ!」


 なんと恐ろしいこと!


「そんなのダメだよ! 山吹くんはクラスでいちばん足が速いし、サッカークラブでもエース候補なんだよ!?」


 言うのは夢莉だ。あら、これはラブかしら? とミルキーピンクは密かに微笑んだ。


「時間がないカサ! とにかく攻撃するカサ!」


「あの皮、頑丈で。カーネーションソードは効かないの!」


 ミルキーピンクが言うと「私も試してみる」とネイビーブルーが飛び上がった。


「ラブユメリプレシャスガン!」


 あれ、そんな名前だったっけ、とミルキーピンクとムカデは思った。


 たしか『愛のキーホルダーガン』とかなんとかだったはずだが、まあ気に入らなかったのだろう。


 ぶにん。


 ネイビーブルーの銃のたまはサンショウウオームの皮にあっけなく衝撃を吸収され床にやさしくコロンと落ちた。


「き、効かないっ……」


 こうなれば前回のウナギトンの時のようにミルキーピンクとネイビーブルーで協力して倒すよりほかない。二人は互いの目を見て頷き合った。


「えええーいっ!」

「やあああーっ!」


 ぶににんっ。


「うっそ! なんで効かないの!?」

 ネイビーブルーが高い声を出した。


 するとムカデが「やっぱり……」とつぶやく。ミルキーピンクとネイビーブルーは「まさか」と目を見合せた。


「そう。新たな力『キャメルブラウン』を目覚めさせるしかないカサ!」


「え、それって」誰なの、と言いかけたミルキーピンクはネイビーブルーとともにムカデが示す方向をそっと見た。そこには。


 まだ腰を抜かしたままの奏都かなとくんのママ、山吹 この葉がポカンと口を開けていた。



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