第2話「はじめての夢」
目が覚めたとき、夏希は全く違う場所にいた。ここはどこだろう? 見知らぬ大学キャンパスに立つ自分。
服装が普段と違うことに気づく。高校の制服ではなく、おしゃれで大人っぽい私服。周りを見渡すと、いつもの高校の友達の姿はなく、全く見知らぬ学生たちがたくさんいた。しかし特段パニックになることもなく、夏希は自分が大学生であることを自然と受け入れていた。
そして不意に流れた心地い風に夏希が振り向くと、そこに4人のイケメンが立っていた。
「おはよう、夏希」
そう挨拶したイケメンその1は
「よ、夏希」
イケメンその2は
「覚えてる? 小さい頃、あの池でカエルを捕まえた時さ」などと、急に昔話がはじまったりして。
「そうだね、でもカエルを捕まえるのは空だけで、私はただ叫んで逃げていたよね」
「そうそう、それでも一緒に遊んでくれて楽しかったな」
そして空は、優しく微笑むのだった。
「夏希がいると、なにをしていても楽しいんだ」
あの時の言いしれない感情が、夏希は今も忘れられないでいる。
「おはようございます、夏希さん」
続いて挨拶したイケメンその3は
「君のおかげで常連が増えたのはうれしいけど、その姿はあまりほかの人には見せたくないな」と、ある日、夏希は凛からそんなことを言われた。
「またまたぁ」と夏希は元気よく言ったが、凛はジッと夏希を見つめていた。
「ここで働いている時の君は元気でいいね。そんな君が僕は好きだ」
あれはどういう意味だったのだろう……。
そして最後に、「夏希〜、おはよう!」と、全力で彼女に抱きついたイケメンその4は、後輩の
「ちょっと。お互いにもう大人なんだよ?」と夏希が玲を叱る。
「 夏希、抱きつかれるの嫌だった?」玲がクスッと笑いながら訊ねると、夏希は思わず顔を赤らめた。
「そ、そんなことないけど。ただ、ちょっと驚くの」まぁ変なところは触ってこないし……と自分に言い聞かせるように夏希が言うと、玲は満足そうに笑った。
「よかった、夏希が嫌だと思ったら悲しいから」
玲のそんな無邪気な一言に、夏希の心はさらに高鳴るのだった。
「おいなにしてんだ」と奏多が言い、空が玲を引き剥がし、凛が夏希を守る。
「なにって、いいじゃん! おれ夏希のこと好きなんだから!」と玲が自分勝手なことを言い、「夏希の気持ちも考えろ!」と空が叱る。凛が夏希に近すぎると奏多がその肩を掴み、教師に向かってなんだその言い方はと凛が眼鏡をクイッと上げる。
いつもの喧嘩がはじまった。この4人はいつもそうだ。
ため息をはいて、しかし夏希は笑顔を見せた。「おはよう、みんな」
「おはよう!」
素直に4人が声を合わせて言う。そしてみな、それが気に入らなかった風に睨みあう。そんな一日のはじまりが、夏希は気に入っていた。
しかし実を言うと、夏希には気になる男の人がいた。それは
ある日、夏希は大学の長い階段を下りていると、向こうから歩いてくる白新の姿があった。珍しく周囲にはだれもいない。ちょっとだけ声を掛けてみようか。しかし白新は相変わらず冷たい目をしていて、世界のすべてがつまらないと感じているかのようだった。今日もこのまま通り過ぎるだけ。たったそれだけの関係。それが永遠に続くのだろうなと思っていた。
ところがこの日、彼は夏希の手前で立ち止まった。
「え?」と、思わず夏希は声を漏らす。
「あんた、夏希って人?」
「えっと、はい、そうですけど」
困惑。はじめて彼と話をした、とても素敵な声だ、でもどうして彼が私の名前を知っているのか、夏希は心の中で大騒ぎしていた。
「そっか」
白新が短く言うと、彼は急に夏希を壁際に追いやった。なにごとかと驚き、若干の恐怖を感じ、両手で体を隠す。しかし近くで見る彼の顔は、それまで想像していたよりもずっと綺麗で色っぽかった。いい匂いがする。
白新は夏希を見つめて言った。
「あんた、ずっとおれのこと見てたよな。なに? なんか言いたいことでもあった?」
彼の声は低く、深みがあった。心臓が高鳴り、胸が突き刺されるような感覚に襲われた。
「おれはあんたのこと、悪くないと思ってるよ。別に好きってほどじゃないけど、あんたのこともう少しわかってくれば、もしかしたら好きになるかもな」
「え、えっと……」
「どうすんの。おれと付き合うの?」
「ええ?」
一瞬、時間が止まったかのように感じた。あまりの驚きに、夏希は何も言えなかった。思った以上にやばそうな男だ。しかしそれすらも魅力に感じてしまうのはどうしてだろう。夢だとわかっていながらも、彼女の心は高鳴り続けた。真剣な瞳、低く響く声、壁に押し付けられる感触、全てが現実と変わらなかった。
奏多、空、凛、玲、そして白新。
私はどうすればいいんだろう……⁉
朝方、夏希は目を覚ました。心臓がまだドキドキしていて、頬が火照っていた。
「すごい……これが夢なの?」
夏希は感動していた。
初めて見ることができた夢は、自分の想像以上に美しくて鮮やかなものだった。夢の中で感じたことは、現実では味わえないものだった。夢を見ることで、自分の人生に色がついたように感じた。ラジオに感謝する気持ちでいっぱいになった。
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