4 聖域、出せちゃった

「到着したぁ……」


 乗ってただけなのにヘロヘロだぁ……。絶対、自動車の時より疲れてる……。


「はい、あと少しですよ。一応聞きますが、宿と教会、どっちにします?」

「私は宿が良い……」


 教会の人たち、首輪着けてても、ミーティオルを嫌な感じの目で見るんだもん。


「なら、俺も宿」

「はい、では急ぎましょう。複数教えてもらいましたが、時間が時間ですから、満杯になるかも知れませんからね」


 くそう……旅慣れしてるキリナが頼もしい……。

 キリナを先導に、フラフラの私はミーティオルに抱えられながら、夕方の街を眺める。

 やっと二つ目の街だけど、大きいなぁ。ちょっとした交易地になってるんだっけ? 立地の関係で。

 一つ目の宿は満杯で、二つ目で部屋の確保に成功。

 食堂でご飯を食べて、限界ギリギリのところで、部屋のベッドへダイブ。


「ニナ。せめて上着──っ!」


 ……ん? ミーティオルの声が、止まった?


「ミー「喋るな」


 え、頭を押さえられた?


「キリナ」


 ミーティオルが、潜めた声で鋭く呼ぶ。


「……ええ。馬鹿かと思うくらい、分かりやすい気配ですね。三下でしょう」


 なんだ? なんだなんだ?


「ニナさん。あなたの力を狙う輩、もしくは命を狙う輩ですよ」


 それかー! 前に聞いたヤツかー!


「位置は大体分かる。届く距離だ。捕まえて良いか」

「手間が省けますね。助かります」


 キリナが言い終わった瞬間、空気が揺れた気がした。

 そして、ミーティオルの手が、頭から離れる。


「ニナ。もう喋って大丈夫だ」

「……顔、上げるのは?」

「まあ、大丈夫でしょう。ミーティオルさん、窓を開けて良いですかね」

「ああ」


 顔を上げると、キリナが窓を開けるところだった。そんで、気を失ってるらしい人間が三人、空中に浮かんでる。


「……これ、言ってた、ライカンスロープの能力……?」

「ああ。その一つだ。掴んでるだけだがな。掴まれたことにびびって、気絶したみたいだ」


 ライカンスロープの能力。色々あるみたいだけど、そのうちの一つに、念動力みたいなのがあるらしい。

 あと、あのバツ印の呪いも、ライカンスロープの能力を使って、付けられたんだそうな。

 キリナが窓を全開にして、ミーティオルが捕まえた人たちが、部屋の床に下ろされる。

 キリナは窓を閉めて、


「ミーティオルさん。一人ずつで」

「分かった」


 鞄から縄を出したキリナの言葉で、一人、ゆっくりと床に寝かされる。

 キリナは手早くそいつを縛って、口にも縄を噛ませる。

 二人、三人。ミーティオルが寝転して、キリナが縛ってく。


「はい、一旦完了です。武器は……また、安っぽいですね……」


 キリナが一人を、身体検査するみたいにして、見つけたナイフやら拘束具みたいなのやなんか分かんない器具とかを、ぽいぽい床に転がしていく。

 全員分のそれを終わらせ、


「どれにも、神の加護は付与されてませんね。呪具でもないし、毒が塗られてる訳でもない。ミーティオルさんは、何か感じますか?」

「……血の匂い。だが、薄いな。錆や黴の匂いもするし、手入れして薄まったんじゃなく、染み込んだ量が少ないんだろうな」


 ミーティオルは、私を起こして抱きしめながら言う。


「早くソイツら、警護兵に引き渡せないか。ニナに見せたくない」

「そうですね。宿の人に知らせてきます。一応、掴んでて下さい」


 キリナは言って、部屋から出ていく音がした。


「……ニナ。こっち、向けるか」

「──え、あ、うん」


 ずっと不審者見てたわ。

 ミーティオルが顔を近づけてきて、


「ニナ。寝れそうか?」

「……あ……どうだろ……眠気、吹っ飛んだ……」


 不審者に気がいって、目も頭も冴え渡ってるわ。


「そうか。……目は瞑れるか?」

「う、うん……」


 瞑ったら、頭を抱えられて、背中をトン、トン、て、お母さんがやってくれてたみたいに、優しく叩いてくれる。

 …………眠くなってきた……まじか……。


「ミーティオル……私……寝て、大丈夫……?」

「ああ。今は危険もない。俺がそばにいる。寝れそうなら寝たほうが良い」

「……うん……ありがとう……ミーティオル……キリナにも……おれい……」


 あとで、言う……。


 ◇


 目を覚ましたら、ミーティオルの腕の中で。

 それはいつものことだったから、そんなに気にならなかったけど、日が昇ってるって、気付いて、焦った。


「大丈夫だよ、ニナ。そろそろ、キリナが戻って来るところだから」


 詳しく聞いたら、ミーティオルはゆっくり説明してくれた。

 昨日、私が寝ちゃってから、警護兵がやってきて、縛り上げてる不審者の話をキリナがして、警護兵はソイツらをしょっ引いて、武器も押収して、キリナは警護兵に、ソイツらの詳しい情報を得るために、ついて行った。

 そんで、一旦深夜に戻ってきて教えてくれたのが。


『雇われのゴロツキでしたね。三下の三下です。元を辿るのは難しそうですね。ですが、朝一に訪ねて、より情報が得られたか、確認してきます』


 そうして、二人で警戒しながら仮眠して、キリナは日の出前に出て行ったらしい。


「マジですか……私だけ寝ちゃった……」


 不甲斐ない……。


「気にするな。ニナは体調を万全にしとくことが一番大事だ。寝れなくて倒れたら大変だろ?」

「でも、ミーティオルにも、キリナにも倒れて欲しくない……」


 なんか、私にも出来ないのかな。こう、聖女なんだから、聖域的な、結界的な。

 守れるもん、出ろ! 神! 力を貸してくれ!


「だから気にすんな、……ニナ? 何した? ……これ、聖域か?」

「た、ぶん……」


 私と、私を膝に乗っけてるミーティオルを覆うみたいに、半透明のドームが出た。

 それには、お決まりの、聖紋とかいう、あの模様があって。


「……ニナ。無理するなって言っただろ」

「ご、めんなひゃい……」


 ミーティオルにほっぺをつままれました……。また、爪で傷つけないようにしてくれる気遣いが沁みる……。


「へも、これじゃ、小さい……もっほ、大きくないと……」

「ニナ。キリナが戻ってから──」


 あ、大っきくなった。

 部屋いっぱいくらいの大きさ。うん、これくらいあれば、少しは安心して寝られる。


「……俺の言うこと、聞いてたか?」

「ご、ごめんなひゃい……なんか、できひゃった……」


 ほっぺをくいくいされる……。

 そこに、ノックの音。


「キリナです。入りますよ、……」


 あ、キリナが、眼前のドームに目を丸くしてる。


「キリナ、ニナが出した。大丈夫か、これ」


 私のほっぺから手を離して、ミーティオルがキリナへ顔を向ける。


「……はぁ……ニナさん。心身に不調は?」


 ドームの中に入れることを確認してから、通り抜けるようにして、キリナが部屋に入ってきた。


「ない。今んとこ。あ、でも、お腹空いてる」

「そうですか……」


 キリナは隣のベッドに座って、銃──出発前に直れ! って念じたら、勝手に組み上がって直った銃──と、帽子を取りながら、


「まず、これ。この聖域を消してもらえますか?」


 上、ドームだろうな、を指差して、言ったから。

 消えろって念じたら、消えた。


「できた」

「そのようですね。それで、ニナさん。ミーティオルさんから、昨夜の話は聞きました?」

「うん。それでキリナを待ちながら、私にもなんか出来ないかなって、思ったら、あれが出た」

「規格外……」


 キリナが遠い目をした。


「まず、あれは聖域というものです。悪──カーラナンでの悪を弾くものです。本来なら、人ひとり分の聖域が出せれば、御の字なんですよ。それを複数人で増幅させて、広げます。あれだけの空間、普通、一人では出せません」

「へー」

「さっきのは火事場の馬鹿力かも知れませんから、今後は注意して下さい」

「分かった。ゴロツキの新情報はあった?」

「これといった収穫は無いですね」


 キリナは首を振って、奴らの話をしてくれた。

 アイツらは、たむろってたところに突然現れた男に私を連れ去る話を持ちかけられて、大金を渡され、それに目が眩んで、私の容姿と場所を教えられると、その足でここへ来たんだそうな。


「完全に、トカゲの尻尾切りですね。連れ去る理由は不明。連れて行く場所も、それらしい場所でなく、近くの広場から一本奥に入った通りというだけ。その場にも足を運びましたが、こちらも収穫は無し。依頼した人間も、成功するとは思わないで話を持ちかけたんでしょうね」

「じゃあなんでこんな……脅し?」

「あるいは、こちらの戦力を確かめたかったのかも知れません」


 キリナは、「まあ、ともかく」と言いながら立ち上がって。


「朝の支度をして、朝食を食べましょうか。……食べられますか? ニナさん」

「うん、食べれる。お腹空いてるし」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る